ペンギン・ハイウェイ


ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

内容紹介
小学四年生のぼくが住む郊外の町に突然ペンギンたちが現れた。この事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした。未知と出会うことの驚きに満ちた長編小説

 児童文学的雰囲気の小説であると同時にSF、セカイ系のようでもあるなあ。しかし、森見さん作風が幅広いな、ただ個人的には「四畳半神話体系」とかのテイスト好きだから、それ以外のものがくると微妙に感じてしまう、というか正直に言うといまいち好みではないので、読み進めるペースも中々上がらないけど。
 主人公のアオヤマ君、頭が良くて勉強家だけど、大人のように振舞っているというわけでも皮肉っぽくもないし、寡黙でもない、という今まで見たことのないようなキャラだ。しかし、町を探検したり、自分たちで考えたり調べていることを研究という大仰な言葉で表わしていたり、あるいは、他者におもねらないで率直に自分の意見を述べるようなところで、はっきりと子供らしさがでているのがすごい。また、アオヤマ君は、おっぱいという言葉を散々口にしているけどそこに邪なものは感じないし、ウチダ君にそういうことを口にするのはと窘められても、何でそういわれるのかわからないという感じで、それが口にするのはよくないものとは知らないようだし、非常にピュアなように見える。彼には子供っぽい短気さとは無縁だ。しかし、彼は子供であるため知識が偏っていて、大人の常識を知らないために、「おっぱい」の件のように、そのことを真面目に言っているからこそ、とぼけた可笑しみをもつ発言になってしまうということがあるのが好き。
 『紙袋に入ったあたたかいフランスパンをかかえるのはぼくの役割である。パンが湿気てしまわないように口が開いていて、いい匂いがする。』(P29)よくイラストなどで、フランスパンが見えているところが描かれていたりするが、今までイラストとして見栄えがするようにそう描いているのかと思っていたが、実際にも湿気ないためという理由でそうして持ち帰ることもある。
 アオヤマ君が幼稚園を作る予定地だったところに、もし他のものを造るなら『「駅だったらいいと思う」とぼくは言った。「小学校のとなりに駅があったら、たいへん便利だ」』(P56)といったのは子供っぽく可愛らしいし、お姉さんの家にはじめて入ったときに、長靴を脱ぐのを手間取ったり、廊下ですべって転びそうになったりと、常にない失敗をしている様を見ると、気分の高揚がみてとれて微笑ましい。
 スズキ君にプールで水着を取られて、その直後にみんなプールから上がるように言われたとき、堂々とプールから出て、鈴木君に水着はどこかとの質問を繰り返した、という恥ずかしさを見せず(感じず)に堂々としている様は格好いい。