薔薇のマリア 18.光の中できみが笑う今は遠くて

内容紹介
城塞都市シャッコーでZOOの仲間と再会したマリアローズだが、トマトクンは死の淵にいた。シャッコーが悪魔の大攻勢を受けるなか、トマトクンを救うため、マリアローズたちは異界へと旅立つ!

 丁度「ログ・ホライズン」や「オーバーロード」、そして「ココロコネクト」、「バカとテストと召喚獣」など好きなライトノベルの発売が重なった日に発売だったが、大好きなシリーズだからこの本を真っ先に読んだ。
 既に物語も佳境に入っているということで、トマトクンが大分前から睡眠時間が多くなり、体調が不調になっていた理由が、そしてそれに伴い彼の過去や歴史についても、明かされた。
 しかし、いくら好きな作品でも、年一回ペースでの刊行になっているから、流石に前巻の話の全部は覚えていないから、トワニングが合流していたことも忘れていたよ。
 ジョーカーがまるで動じずに前線に身を置き、当たらぬと確信を抱いているように振舞うことについて、マリアが『今一瞬、ジョーカーすごい、とか思っちゃった、こわぁーっ。きっと人はこういうことをきっかけにして道をたがえるのだ。ただ運がよかっただけなのかもしれないのに、そうに決まっているのに、何この人マジですごいやばすぎるとか思い込んで英雄視しちゃったり崇拝しちゃったりするのだ。ジョーカーみたいな男はそういう心理につけこんで他人を手足みたいに使ったりするのだ、たぶん。』(P28-9)と感じたように、軍人の中に弾雨の中を平然と行くというような豪胆なエピソードがあるが、今まで単にわざわざ危険なところに無防備といっていい状態で行くなんて、無駄にリスク犯しているなあ、としか思っていなかったが、この文章を読んで、そういうのもどのくらい意識してかは知らないが部下の自分への信頼性やある種の神秘性をあげるためにそうやっていたのか、とはじめて思い至った。
 ダリエロとベティがお互いに好意を抱いていることがわかるけど、以前にもこの情報出ていたっけ、ちょっとそこらへん覚えていない。まあ、以前より口論とかしていたけど、結構親しい気の置けない間柄といった雰囲気があったので、そうだったのかと納得できるけど。
 前巻くらいからでてた、トマトクンの過去に登場する姫さんが蠅たかり姫なのかな?ああいったものが、かつて人間だったというのは痛ましすぎてちょっと目を背けたくなるけど……。
 莉王、カタリと共に囮となる覚悟を決めたことについて、カタリが漢としては格好いいが、大勢の人間を預かる統率者としてはどうだろうか?と疑問を覚えたが、たしかにこうした散り様をするのはある種英雄的な行いだが、多くの人間を生かす使命を持った統率者としてはもっと非情と思える決断をできたり、無様とか粋だとかで判断せずに自分や仲間が泥にまみれても生き抜くといった覚悟がなければダメなんだろうなあ。
 秩序の番人のグレヒャ、人面犬といった外見であるが地獄の公爵(らしい)ゾーゾーが驚いていることだし思ったよりもずっと強いのかな。というか、赤の伯爵よりもゾーゾーが強いとは正直思えないのだが、地獄の爵位は単純に強さ順というわけでもないのか?
 獄の獄の大ワーム、ZOOの面々が苦戦していた大天使ごと飲み込むって、そんな強いの。正直ワームとかって、こういったファンタジーRPGではやられ役といった印象しかないので意外だった、まあRPGでいえば敵キャラじゃなくて罠といった感じのものなのかもしれないなとも思ったが。
 強面の秩序の番人の羅叉がヨハンの子ども相手におたおたしているのは微笑ましい。
 シックス、変わったとはいっても戦闘時に奇声をあげたりしているのは変わらないのね(笑)。というか、今までそれは相手を挑発するためにやっているのかと思っていたが、もしかして素なのか?(笑)。しかし、今までシックスが改心して仲間になったのは単純に戦力増加だな!と喜んでいたが、秩序の番人たちにしてみれば長年トップにいた慈父のような人間を罠によって殺すなど、因縁深い相手だし、自身の子を影武者に使うなどとうてい常人には理解できない思考をしていた人物だから、旧怨を忘れてという気持ちにはとうていなれず、危険視して彼は死ぬべき者だとさえ思うのも仕方がないか。そうした重さを本人も知っているからこそ、彼がベアトリーチェと会うことで人としての正道を歩みはじめることを決心したのは、その決心によって今までの罪深さはぬぐわれずと、非常に尊いことだ。まあ、単純にコントラストが非情に利いているから強くそうした印象を覚えるだけかもしれないけどさ。
 焼夷弾でものすごい破壊効果を得ているが、こういうのを見ると今までの魔法とかが相対化してしょぼく見えちゃうな。だが、それと同時に科学の破壊力・殺傷力の恐ろしさというものを、より強く感じる。
 トマトクンの本当の肉体がある目的地直前での蠅たかり姫らとの戦闘において、かなり劣勢で時間もないのに、と読んでいて焦る気持ちも少なからずあったが、『トワニングは傍目にもやばいくらい光っている。』(P313)という描写にはシリアスな場面なのに堪えきれず笑ってしまった。
 そして、ついにトマトクン復活!次巻まで持ち越し、という風にならなくて良かった。ラストでジョーカーたちは苦戦を強いられているところで引だが、普段情を表に出さない彼が『それでも己は守らねばならんのだ。(中略)あの馬鹿者どもが戻ってくる場所をなくすわけにはいかぬ』(P346)という風に内面ではトマトクンの復活を信じ、仲間のことを思っていることを感じられてよかったが、こうした苦戦の中で今まで見せなかった内心が描写されて引きという感じだと、フラグっぽくて嫌だなあ。どうかトマトクンたちが帰ってくるまで無事でいてくれよ。