まほろ市の殺人

内容(「BOOK」データベースより)
まほろ市―そこは不思議な事件が勝手に集まってくる、普通に見えて、どこかおかしな街。春には幽霊の痴漢とバラバラ遺体が。夏には新人作家への一通の手紙から不思議な恋と親友の死が。秋には連続異常殺人が。冬には大金に目が眩んだ男の前に双子の兄の亡霊が。同じ街を舞台に、人気ミステリ作家四人が描く、息を呑む驚きのトリックの数々!傑作推理アンソロジー

 基本的にこういうアンソロジーというか合本は、あまり購入意欲がそそられないので、買わないのだが、麻耶雄嵩さんの中篇目当てに購入。
 「春 無節操な殺人」(倉知淳)倉知さんの小説を読むのはたぶんはじめて。パソコンで検索するだけなのに、『そりゃそうだよ、あんたが一番こういうの得意なんだから』(P71)のように表現したり、あるいは『理系の高校生らしく、渉くんはパソコンが大好きなのである』(P72)なんて文があったりするのを見るとなんとなく時代を感じるなあ。美波が被害者の身辺を調べるため、被害者の自宅を見てみようとして、他にも野次馬がアパートに群がっているのを見て自己嫌悪するシーンには、まあ、探偵めいたことを現実で素人がやろうとすると自然とそういう野次馬風になっちゃうよな、と納得。特にこの中篇の登場人物たちに名探偵はおらずただの大学生たちだから、それがわかりやすい。この中篇では、何故死亡した被害者がベランダにしがみついていたかという謎は、渉くんの推測で明かされるが、犯人までは明かされずに終わる。まあ、犯人当ては本筋でないからいいんだけど。
 「夏 夏に散る花」(我孫子武丸)なんでみずきが、あそこまで君村義一にベタ惚れなのかがわからないなあ。というか、真相が明らかにされたら、この中篇で描かれている時期って君村義一のモテ期だったのでは思えるぐらいのモテっぷりだな(笑)。まあ、彼に恋愛感情を抱いていた人間の全員が死ぬか塀の中という終わり方なんだけどね。
 「秋 闇雲A子と憂鬱刑事」(麻耶雄嵩)なんか今更かもしれないけど、麻耶さんの小説って、暗い語り部がS気の強い探偵に振り回されているという取り合わせが多い気がする。いや、単にメルカルト鮎の印象が強いだけかもしれないが。あと、「聞こし召していた」という言葉が酒を飲んだことを表わす語だということをはじめて知ったが、字面ではちょっと想像しにくい使い方ね。天城の妻、物事の軽重の判断が人とは大いに異なっているねえ、こういう天才はよくわからんし、何故天城が彼女と結婚できたのかもさっぱりだ(笑)。
 「冬 蜃気楼に手を振る」(有栖川有栖)こういう一手誤れば身の破滅というようなドキドキ感は嫌いなので、読むのがとても辛かった。しかし、疑わしき人間にボロをださせるために、警察がとった策略が、冗談のようなものだったため、それが明らかになったとき変な具合に気が抜けた。