TUGUMI

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会った―。少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く、切なく透明な物語。第2回山本周五郎賞受賞。

 詳しくはないんだけど、よしもとさんの小説の中では「キッチン」の次くらいに有名な作品なのかな?なんとなく、感想を書く段まではそう認識していたが、そのような文言を書こうとしたら、根拠をもっていないことに気付く(笑)。忘れているだけなのか、勘違いなのかはわからないけど。
 つぐみ、容姿は美麗で身体は弱いが、男勝りな口調で悪戯好きで子供っぽい性格というような、相反する資質を持っていて、それらのギャップがまたいいね。こういった、美しく男っぽいキャラは個人的に大好き!
 語り手のまりあの父がようやく元の妻と離婚し、母と再婚して、まりあが過剰に感じるほど家族サービスをしているため、まりあがあまり熱心にそうやっていて、オーバーヒートして急に家庭に飽きたりしないでね、と心配するが、その時に父がした返事の『いつかはそういうこともあるかもしれんよ(中略)もし、みんなの心がかみ合わなくなって、そんなときがきても、そういう時のためにこそ、楽しい思い出はたくさんあった方がいいんだよ』(P50)という台詞にはちょっと感動した。そうした家族の優しい記憶やいい思い出がたくさんあったら、嫌なことがあって喧嘩しても、それだけでいつまでの家族でいられるものね。
 まりあがつぐみを驚かせようと、恭一を急に家に連れ帰ってきたときに、つぐみが隠れていて、体調が悪くなった時に、つぐみが恭一を引き止めて、『「何かひとつ話をしてくれ」つぐみは切実にそう告げた。「あたしは子供の頃から新しい話をひとつ聞かないと眠れないんだ」』(P114)と嘘を交えつつ、そうねだったのはすごく子供っぽくて可愛らしい。
 犬を殺されたからといって、仕返しに自分の気力を使い果たして落とし穴を作って、犬殺しの一人を落としたまま放置するというのは、褒められたことではないけど、相手に同情心がわかない以上、単純にそれはいけないことと切って捨てたくもないので、どう反応していいのか微妙にもやもやする。
 物語終盤の流れからいって、つぐみが死ぬ展開となっていたので少し読み進める手が止まったが、いざ覚悟を決めて読んでいくと、実際には死ぬまでは到らずに(それでもやはり、当人は死の一歩手前までいって死と再生を感じたのだが)物語を終えてくれたことにはホッとした。解説に、よしもとさんが『人生に対して否定的であり、それゆえにせめて小説では肯定的に書いている』(P245)ということは知らなかったが、そのおかげでつぐみが死なずに済んだと思うので、そうした小説を肯定的に書くという姿勢をありがたく感じた。