シズコさん

シズコさん (新潮文庫)

シズコさん (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
四歳の頃、つなごうとした手をふりはらわれた時から、母と私のきつい関係がはじまった。終戦後、五人の子を抱えて中国から引き揚げ、その後三人の子を亡くした母。父の死後、女手一つで家を建て、子供を大学までやったたくましい母。それでも私は母が嫌いだった。やがて老いた母に呆けのきざしが―。母を愛せなかった自責、母を見捨てた罪悪感、そして訪れたゆるしを見つめる物語。

 前から読みたいとは思っていたけど、文庫化したときはちょっと重い、深刻な話を読みたいと思えるような気分ではなかったのでスルーしていたが、最近また読みたいという気分になったのでようやく購入して、読了した。
 佐野さんが母を最上級の老人ホームに入れたのは、「母を愛さなかったという負い目のため」で、かなりのお金を毎月払っているのにそれでもうしろめたさを覚えているというのを見ると、いかに親子関係というものが割り切れない(単にお金払って世話をしたから義務は済んだ、とはなれない)ものなのかということをひしひしと感じる。
 佐野さんが子供の頃のエピソードで、スカートからはみ出すくらいのパンツというのがでてくるが、ワカメちゃんかよ、とつっこみたくてしかたないので触れておく。しかし、佐野さん見たくそういうパンツをはいていた人がいるのだから、ワカメちゃんみたいなパンツをはいていた人は極少数ながらいるのかなと益体もないことを考えてしまった。
 父の親友の渡辺先生、父の死後も佐野さんたち遺児の奨学金を集めてくれた、など本当にいい人だし、彼自身が死ぬ2年前に呆けたときに『洋子ちゃん、僕、バカになってしまったよ』(P39)といった言葉は、穏やかに現状を受け入れる精神には感動するし、文章で読んだだけでも切なくなってしまう。そして、その言葉を聴いて『六十七になって理想の男がわかった』(P40)と佐野さんが言う気持ちもわかる気がする。だって、格好いいもの。
 母が年老いてから、息子の嫁に自分が建てた家を追い出されたというのは本当に可哀想。それから佐野さんと同居することになっても、今まで長年生活が根付いていた場所から遠い東京で暮らさなければならないはめになるとは……。でてくる他のエピソードの多くも哀調を帯びたものばかりなので、人生の哀しさが綴られているから、読んでいてものすごくへこんだ。
 呆けている母の『ワタシガ、ドウイウヒトダカ、セツメイシテクレレバイイノ』という言葉には、一体なんといっていいかわからなくなるし、悲しさと恐ろしさを感じてしまう。
 へヴィな内容なのでちょっと鬱々とした気分になるが、呆けてしまった母と接する内に、長らく母を愛せなかったという自責の念があったが、赦されたという感慨を覚えたところには思わず涙が出てきた。