キケン

キケン (新潮文庫)

キケン (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ごく一般的な工科大学である成南電気工科大学のサークル「機械制御研究部」、略称「キケン」。部長・上野、副部長・大神の二人に率いられたこの集団は、日々繰り広げられる、人間の所行とは思えない事件、犯罪スレスレの実験や破壊的行為から、キケン=危険として周囲から忌み畏れられていた。これは、理系男子たちの爆発的熱量と共に駆け抜けた、その黄金時代を描く青春物語である。

 文庫化したので再読。以前にも読んだが、相変わらずめちゃくちゃ面白かった!
 上野の自室(?)であるプレハブ小屋、『直哉の部屋 ※食事・トイレ・就寝以外で母屋に入るときは許可制のこと』と看板がかけてあるが、その※はいったい誰に対しての注意なんだ。そしてなんだか、動物に餌を与えないでください、みたいな看板だね(笑)。
 しかし、危険人物上野が、まともに就職した上にまともに結婚したなんて、「人生は不公平だ」と叫んだ後輩がいるのも頷ける、腑に落ちなさを感じる(笑)。
 閑話休題、機研の面子は男しか居ないから、『AV鑑賞会が始まったりすることも珍しくない。』(P67)ということだが、他の作品でこういうエピソードが出てくるときにも思ったのだが、個人的にAVをなぜ皆で見るということになるのかがわからないな、いったいなにが楽しいのだろう?
 「三倍にしろ!」前編の学祭の前準備で、元山が鶏ガラスープのレシピ作りに悪戦苦闘しているのも、そして実際に母の助言もあり美味しいものを作り上げることができ、それをはじめに池谷や上野・大神にふるまった場面も大好き。そして、後編の学祭で全員が全力を振り絞っている(比喩でなく)のも好きだ。
 元山はライバル店がいても元手を三倍にする方法を考えろ、と上野に無茶な要求をされても、悲鳴を上げつつも即座に準備日にも営業できないかと提案するのは格好いい!
 しかし、池谷が助け舟を出してくれたからよかったとはいえ、それまで上野が元山の家の喫茶店の厨房で鶏ガラスープのレシピ作りをしろという命令をしようとしたのは、流石に引くわ。あと、上野がPC研に絡まれている元山を助けに来てくれたのはいいのだけど、物理的に危険という意味ではダントツ(動いていたら死んだり、頚椎損傷の危険性があった)で一番元山を危険にさらされているのも引く。
 鶏ガラを見て『動じなかったのは田舎育ちの池谷だけだ』(P167)というのは、田舎育ちだというのを、動じなかった根拠みたいに書いているのは、そんな田舎では鶏を絞めることを日常的にやっているみたいに感じられて、ちょっと偏見なのではと思わないこともないけど、実際どうなんでしょ。
 件主催の人型のロボット相撲大会で、決勝の相手が大人気なく勝利にこだわっているのを見て、上野が最初大人気ないといっていたが、『負けてあんな露骨にむくれるくらい本気で遊びに来てるとこは気に入った。大人たるものああでないと』(P275)といっているのは同感、なんであれ大人気なく本気でやれる、というのは羨ましい。
 結局その大会は、第一回が自爆オチだったから、参加者がルールの穴を衝くことに走る大会になってしまって、5回くらいで潰れたとのことだが、大会側が吹っ切ってそっちの方面で盛り上げたら、面白いことになっただろうな。例えば、当時は無理だろうが、現在まで存続してたらネットで盛り上がりそう(笑)。
 空気でビスを打ち出し貫通力を競っているうちに、ビスが壁に完全に打ち込まれたところで競うのは終わったが、両者で協力してもっと威力を上げようと盛り上がっているとき、俺たちが作ろうとしているのは銃だと本山が気づいたからよかったものの危ないなあ、上野が直截関わっていないのにこれとは、上野の悪い影響力の強さが伺える、と同時にそれ以上であった(実際に銃を作った)本家本元のヤバさもわかる。しかし、大神は機研の外付け良心だね、まあ、彼の基準も一般の基準と比べればかなり緩いけど、上野を筆頭に上野に悪影響を受けた機研の面子が相手だからそのくらいの基準でちょうどいい。
 解説で『本来「機研」は<全国レベルのロボット選手権なんかで上位まで残ったり、そのほかの発表会でも展示物が入賞したり>と目立つ実績があり<そのぶん活動は厳しかった>。』(P354)と書いてあって、そういえばそうした真面目な側面があったということについて、彼らの非常識っぷりにとらわれてしまい、さっぱり印象に残っていなかったよ(笑)。そういう活動をしていたと改めて知ると、そうした活動についての話も読んでみたかったという気が起きてきちゃうな。