四畳半王国見聞録

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
「ついに証明した!俺にはやはり恋人がいた!」。二年間の悪戦苦闘の末、数学氏はそう叫んだ。果たして、運命の女性の実在を数式で導き出せるのか(「大日本凡人會」)。水玉ブリーフの男、モザイク先輩、凹氏、マンドリン辻説法、見渡すかぎり阿呆ばっかり。そして、クリスマスイブ、鴨川で奇跡が起きる―。森見登美彦の真骨頂、京都を舞台に描く、笑いと妄想の連作短編集。

 森見さんの阿呆な大学生たちの話は好きなのだが、これはいつものと違い連作短編という形式だからというのもあるのかもしれないが、なんか物語の明るさとかテンションの高さがいつもと比べると弱いから、うーん、単純に笑えて面白いものを期待していたからそこらはちょっと微妙だったかな。
 『当初は後ろ向きの咆哮であった。高校時代の情けない初恋や大学時代の失策の数々が、余を咆哮に駆り立てたのである。続いて前向きの咆哮が取って代わった。ありていに言えば未来の不安である。「俺も前向きになったものだ」と、余はいささか感心した。』(P26)思いもよらない「前向き」という言葉の使い方(笑)
 「蝸牛の角」の冒頭で「四畳半神話大系」の主人公、小津、明石さん、樋口師匠の4人が思いがけず登場、彼らの会話が少しだけでも見ることができるのは嬉しい!しかし、この短編では、蝸牛やらヤモリにどんな意味があるのかがよくわからないけど何だったのだろうか?
 「大日本凡人會」無名が善行を積もうとしたことで退会になったのは方向性の違いとしていいとしても、そのことで凹氏が無名君を気遣って、彼が退出した後ポツリと「立ち直ってくれるといいな」と言っているのには笑った。しかし、初音さんと無名君はずいぶんな暇人なんだね(呆)。しかし、数学氏の才能は彼女を「創」れるとは凄まじい能力!
 「四畳半統括委員会」普通のサークルと見せかけて、違法なビジネスや宗教の勧誘というのはありそうだが、それを説明し警告する文に例として『ソフトボールサークルに参加したつもりが、夏の合宿に出かけてみるとソフトボールに全く関係のない教祖様が出てきた』(P187)というのには、思わず、「関係のある教祖」がいるのかと突っ込みたくなる衝動に駆られる(笑)。この短編には再び小津、そして相島という「四畳半神話大系」でも出てきた登場人物が出てくる。
 詭弁論部、芹名、非常に勉強家で、ページ一枚程度なら一瞬で読める速読能力をもっているなど、なかなかスペック高いのに、阿呆なことしてますね。
 「グッド・バイ」での語り手、最初は、別れを告げても、薄い反応しか返ってこないのを、虚勢を張って好意的に解釈しているのに、涙ふけよ(笑)という感じだったが、だんだんと可哀そうになってくる、最後になって救いがきても、もう自棄になって、いろいろと振り切れてしまったことも含めてね。