竹島密約

竹島密約 (草思社文庫)

竹島密約 (草思社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
「解決せざるをもって、解決したとみなす」。1965年、竹島(独島)問題を棚上げする密約が河野一郎国務大臣と丁一権総理の間で交わされた。交渉に関わった岸信介池田勇人佐藤栄作、李承晩、朴正煕の日韓両国の歴代政権、その裏で動いた大野伴睦河野一郎、矢次一夫、児玉誉士夫金鍾泌フィクサーたちの動向を捉え、密約に至った全プロセスをたどる。そして金泳三政権以降、密約が反故にされた理由とは?アジア・太平洋賞大賞の力作ドキュメント。

 韓国側の視点から戦後の日韓交渉史について書いているが、竹島がどちらのものかということには触れないようにしているので、どちらかに過度に肩入れしているという印象は強くは持たない。まあ、韓国出身の方だから、というか、韓国サイドの視点をメインに交渉を描いているから、多少韓国寄りじゃないかなと思わいこともないが。しかし、帯に「解決せざるをもって、解決したとみなす」と思いっきり交渉の末の結論が書かれてしまっているから、正直それだけわかれば個人的には十分だったかな、と読んでいて韓国側の人名が頭に入っていかないからそういう思いが頭を掠めた(笑)。
 戦後すぐの講和条約の領土について、日本が理屈立てて、しっかりと竹島を日本の領土だと主張することが出来たのに対して、韓国は波浪(パラン)島などという存在しない島を領土だと主張したので信頼性が薄れた。というか、『日本は、対馬、パラン島および日本海内の独島にたいする領有権を放棄すること。』(P36)明らかに日本の領土である対馬や存在しない島と同列に竹島を自分の領土だと主張したというのは、妄言と思われても全く不思議でないね。まあ、外交手腕の巧拙で竹島の領有権が日本から取り上げられずに済んだというのは、いったん取り上げられかけたというのは知らなかったが、なるほど。それと最初に多少韓国寄り云々と言ったのは、例えば、対馬の領有権を主張したという阿呆なことがさらっと流されているあたりがそう感じるわ。
 岸信介反共主義という信念から、北朝鮮と対抗している韓国に頑張ってもらわないといけないとはいえ、ちょっと現在日本人の目から見たら、日本にメリットのない譲歩をしすぎじゃないかと思わざるをえない。いや、当時はそれほど共産主義が脅威だった、あるいは当時の建国間もない韓国が助力しなければ消え去りそうなほどの国に見えていた、という見方をしたほうがいいのかもしれないけど、でもなあ……。と思ったが、竹島を武力で掠め取り李承晩ラインを設定したせいで、2000人もの漁民が抑留されている事態になっていたのでは、早急に解放するために、ある程度の譲歩も仕方ないか。しかし、こういうのを見ると、結局世の中武力なのかと苦々しく感じるが。
 渡辺恒雄ナベツネ)の名前が何回も出てくるが、この人が日韓交渉の初期に暗躍していたというのは知らなかった。半世紀前に政治の舞台にいた人が現在も野球関連だけど、ニュースになることもある(ここ数年テレビ見ていないから、現在もかははっきりといえぬが)というのは珍しい、というかずいぶん息の長い人なんだなと感心してしまう。
 未解決状態で解決したものとする、というのは朴正煕と金鍾泌の叔父・甥のコンビの発案。しかし、今でもそうだが、国際司法裁判所に出るのを韓国側が嫌がっているのは自分のものというには苦しいからだと自覚しているからでは、と感じるのは致し方ないことだ。
 請求権問題解決のために尽力した、大野伴睦という人は正直あきらかに韓国側にたって、韓国のために尽力して運動しているよなあ。日本の国益のために対韓交渉に尽力する人材が現れなかったのは非常に残念なことだ。
 しかし、日韓交渉の韓国側のプレイヤーは、ほとんど40歳以下と総じて若いなあ。
 交渉の結果、李承晩ラインは縮小した上で、「日韓漁業資源調査水域」として、それぞれ自国民にラインは存在するだったり、もう存在しないといえるようにした。
 密約『竹島・独島問題は、解決せざるをもって、解決したとみなす。したがって、条約では触れない。/(イ)両国とも自国の領土であると主張することを認め、同時にそれに反対することに異論はない。/(ロ)しかし、将来、漁業区域を設定する場合、双方とも竹島を自国領として線引きし、重なった部分は共同水域とする。/(ハ)韓国は現状を維持し、警備員の増強や施設の新設、増設を行わない。/(ニ)この合意は以後も引き継いでいく』(P227)(ハ)を読んだ時点で、韓国に密約を守る気は既になくて、現在は守られていないことはよく理解できたよ。しかし、韓国が軍事政権から文民政府に変わったとき、逆賊といわれるのを恐れて取り決めの文書を燃やしたり、密約の存在自体を大統領が知らないようになってしまった。それから、その海域で訓練をさせたり、施設を増設したりというような挑発行動をしだした。最も無意味な(イ)のみが現在も形式的に残っていてもしょうがない、というかすでに破られたものなんだから(イ)が続けられていることをもって一部でも残っている、あるいは再び密約の通りに実行というのは滑稽だしな、それに既に施設を増設しているんだし。実は腐れ落ちても形式だけ残っているのは物悲しい。
 初期の日韓交渉のプレイヤーたちはお互いのことを身内の人間のように見ていたから、ある程度日本の政治家も譲歩することに躊躇いはなかったのかな、今から見ると本来の責務である日本の国益を守るために努力するという仕事を果たしていない醜悪な行いにさえ見えることもあるが。
 『韓国の政権が国家経営に失敗して金融危機に直面し、日本から援助を受けることはあっても、それは日本が「戦略的計算」をもってきめたことであり、感謝したり恩を感じる必要はない』(P292)こういう態度を露骨とっているから、いまいちなあ。