シューマンの指

シューマンの指 (講談社文庫)

シューマンの指 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
音大のピアノ科を目指していた私は、後輩の天才ピアニスト永嶺修人が語るシューマンの音楽に傾倒していく。浪人が決まった春休みの夜、高校の音楽室で修人が演奏する「幻想曲」を偶然耳にした直後、プールで女子高生が殺された。その後、指を切断したはずの修人が海外でピアノを弾いていたという噂が…。

 文庫版が発売されて直ぐに買って、すぐ読んでしまうだろうと思っていたら、思ったよりも読むまでに間が空いてしまったなあ。
 音楽なんて全然わからないが、修人がクラシック音楽(というか主に題名にも入っているようにシューマン)について薀蓄を語っているシーンがかなり多いのに、そういう薀蓄が面白く読めたということは、奥泉さんの文章力が上手いということもあるけど、他人に面白く伝えられるほどに音楽について造詣が深いんだな。まあ、音楽をテーマにした小説を幾冊も書いているのだから今更な感想だけど(笑)。音楽知識があったらもっと楽しめるのだろうが、僕のように知識が全くなくても十分楽しめる作品なので良かったよ。
 そして、奥泉さんの小説って全部世界観が一緒のようで、毎度「アトランティス」云々という単語が出てくるが、最初にその名称を小説に登場させた当時はどうだったかわからないけど現在は正直その語はチープなものと感じられるようなものだから、読んでいてちょっと微妙な気分になってしまう。
 『ロマン派以前の音楽が、どこかで神話の輝きを帯びた叙事詩的な性格をそなえていたのに対して、ロマン派は、近代文学と同様、個人の感情や内面の葛藤を物語の軸にすえるところに特色がある。だからこそロマン派音楽は、演奏者や聴き手の「感情移入」を容易に許す。物語が感情を揺さぶり、心からあふれ出す感情が物語を生み出す』(P121)ロマン派とかについては、そういえば言葉だけは聞いたことがあったが、正直どういう意味なのか気にもしていなかったが、ロマン派は個人の感情や内面を描き、感情移入されやすいものということなのね。
 いくつもの音楽が聞こえ、感覚が研ぎ澄まされていた一夜に修人のピアノを聞いているときの描写は、音楽を聴いているだけの場面で長めなのに、全然読んでいて飽きない、それどころか、むしろ面白い、このシーン好きだなあ。
 ミステリーがどうたらという前評判は見たことがあって、帯にも少し書いてあったが、ラストがああなるとは!いやあ、わからんよそれは(笑)。いやあ、修人のことが衝撃的過ぎて、その他の部分は現実とどう違っていたかについては感想を書いている今現在には既に記憶が曖昧になってしまっている(笑)。