メモリークエスト

メモリークエスト (幻冬舎文庫)

メモリークエスト (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ふとした瞬間に思い出す「あいつ、どうしてるかな?」という誰かや、「あれは何だったんだろう?」という何か。そんな記憶を募集して、地球規模で探しにいくという酔狂極まりないプロジェクト「メモリーエスト」。意気揚々と旅立った著者だが、見通しが立たなさ過ぎていきなり茫然。どうなる?笑いと感動で読む者を圧倒する、伝説の大追跡記。


 いつもの高野さんの辺境での旅を描いた紀行エッセイとは違って、他人が過去に印象深い出会いをした人だったり過去の友人に会いに行くという、なんだかテレビ番組的なノリの企画だなあ。
 しかし、わずかしか手がかりのない人を1人でよくそう何個も見つけられるとは、目の付け所がいいんだなあ、と感心しきり。5個の人探しのうち、最初の3つは本当に旅の途中に一期一会で出会った人なのに、2人も見つけているのはすごい。あと2つの人探しは、1つは高野さん自身が昔出会った、フランス人記者の通訳兼ドライバーとして雇われていたが、その仕事中難民キャンプでの虐殺の死体を目撃して、それがスクープされた結果、コンゴ政府から怒りを買って逮捕されたあと、脱獄して国境まで超えて逃げていた、リシャールという青年と再開しようと試みるもので、それは本書のうちで一番面白かった!そしてもう1つは、最後の話が内戦で連絡が取れなくなった友人を探してほしいというものだが、これは依頼投稿時と高野さんがそれらの依頼を選考するときは知らなかったことだが、依頼主が担当編集者の妻の依頼なので、結果として探し出す人とある程度の関わりを持った依頼2つは作家の身内と自身のものかい。まあ、どれだけ本気で挑戦してくれるか一般の読者には伝わりにくかったから、そんなにヘヴィな内容の依頼が集まらなかったということもありそうなので、この企画の続編の「メモリーエスト 2」ではもっと探す人と依頼人の関係性がもう少し深いような依頼が増えているかもしれないな、そちらのほうが読んでいて面白いからそうなっていて欲しいという願望を含んだ希望的観測だけど(笑)。
 正直最初の依頼は、何でその依頼を選ぶのかな?と思ったが、タイに住んでいたこともある高野さんは、タイは年功序列がしっかりしているので、子供が若者を仕切るというようなことは普通ありえないことを知っているので、実際仕切ってっていた少年のことを、より不思議に思えたということなのか。しかし、見つかるときにはあっさりと見つかるなあ、そのあっさり加減が現実なのだな、と改めて思う。
 タイのメーサロン、国民党軍の残党が根付いた土地であり、麻薬栽培を大規模な産業にして、そのうちヘロインが開発されるとビジネスの規模が拡大して、ビルマ・タイ・ラオスの国境地帯は「ゴールデントライアングル」と呼ばれる地帯となった。しかし、80年代以降はタイが近代化を進めたこともあって、他の作物の栽培に転換したり、金持ちは香港や台湾に逃げたりしたというが、そんな変り種の土地があることは知らなかった。そして、元兵士たちは台湾から恩給を貰って細々と暮らしている、って台湾がそういった元国民党の兵士に恩給を与えていたことも知らなかったよ。
 3話のセーシェル諸島マヘ島、高級リゾート地は、普通のリゾート地のように高級ホテルがそびえた地おしゃれなれカフェやレストランが多くあり、合法ぼったくりを行っているものではなく、会員制クラブのようにひっそりとしている、というのは知らなかったが面白い。それと、その島で春画を見て、春画は「動画」を一枚の絵で表わしている、という気づきを得て、その動きを見られるようになった視野を新たに得たというのはすごく羨ましいことだな。
 難民キャンプ虐殺の死体を目撃した記者に同行して、それがスクープになった結果、コンゴ政府から怒りをかい、逮捕されたが、看守が友人だったため脱獄して、コンゴから脱出した男リシャールと最後に連絡を取ったときの彼がいた南アフリカで探す、というのは南アフリカってかなり危険な地域で人探しとはチャレンジャーだな。たまたま泊まったホテルはコンゴ人が多く働いているところだったので、コンゴ・コミュニティの伝手であっさりと再開することが出来た。しかし、彼のその後の話や改めて聞く当時の話なども読んでいて凄く興味深い!そして、リシャールと会った日に、高野さんは探検部の後輩がチリの兵士に撲殺されたということを知り、その事実に衝撃を受けていると、近くにいたリシャールが心配そうに尋ねてきたが、喋るのがつらく、またフランス語であったため単語を並べるようにぽつりぽつりと話して、その出来事が彼に伝わると、彼は涙を流して悲しんだ、それは、高野さんには現実感がない出来事だったのに対して、リシャールにとっては現実感のある出来事だったから、と高野さんは理解した。その出来事を再会したことで思い出して、リシャールにそういうことだったのか、という問いにリシャールが言った『僕には見えたよ。見えたというより、痛みを感じた。僕が自分で殴り殺されるような気がしたんだ』(P276)からは、彼が置かれていた殴り殺されることをリアルに感じ、そして強く共感を覚えることができるという、世界の残酷さをまざまざと見せ付けられるようなこの返答はすごく重いな。