know

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)


内容(「BOOK」データベースより)
超情報化対策として、人造の脳葉“電子葉”の移植が義務化された2081年の日本・京都。情報庁で働く官僚の御野・連レルは、情報素子のコードのなかに恩師であり現在は行方不明の研究者、道終・常イチが残した暗号を発見する。その“啓示”に誘われた先で待っていたのは、ひとりの少女だった。道終の真意もわからぬまま、御野は「すべてを知る」ため彼女と行動をともにする。それは、世界が変わる4日間の始まりだった―

 野粼まどさんの新作が、まさかハヤカワ文庫で出るとは思わなかったわ。しかも9月にもハヤカワ文庫からもう1冊出るようだ。今回も人智を超越した女性キャラと男性の語り手のお馴染みとなっているものだが、雰囲気はいつもとレーベルが異なるということもあり、いつもよりちょっと落ち着いた感じかな。
いつもの野崎さんの小説だと、何かしら喩えとか会話で笑わせるようなものを入れてくるけど、今回はそういうのはなかった。だけど、会話で相手方の天才とか何かに捻った言葉遊びとか入れてこられると、語り手がつっこみっぽくなって、ラノベ風になってしまうから、入れなかったのは良かったと思う。ラノベ風が嫌なのではなく、この小説で語り手がそんなつっこみ気質になってしまうと、どうも合わないと思うからなあ。
 そして、中盤から後半にかけてレベル*が出るまでは、どことなく村上春樹さんとか伊藤計画さんみたいな文章で(といっても、伊藤計画さんの小説で何が似ているかなと考え、最初に連想したのが「ボク・蛮族〜」だから結局村上春樹さんっぽいのだろう)、淡々と進んでいった。個人的には淡々としているほうが、平常心で読み進められるからいいことだけどね。
 しかし、この世界の情報が入手できる度合いや情報が保護できる度合いがクラスで変わるという制度は酷いものだね、人権ガン無視だ。レベル0がなく、普通がレベル1とかならともかく、普通がレベル2で、交通違反などの軽い罰則でレベルが下がるし、貧困層はレベル0で、レベル0ではプライバシーが垂れ流しになり、しかもそうした格差が子供にまで及ぶんだからなあ……。その上、その人のレベルが一目でマルわかりというのもまた酷さが増す要因だ。
 レベル*の機密情報課の人間が出てきて、何か超能力染みた戦いが行われて以降、のレベル*の奴の性格もそれまでの登場人物とはかなり違うということや、敵が出現してなんかいきなり追われる立場になったこともあって、なんか物語の雰囲気も変わったな。
 終わりを見ると、三縞さんベタ惚れじゃないですか!だけどラストを見ると、知ルは戻ってきたようだから、その後彼はどちらと結ばれたのかな。しかし死後の世界が0でなく、意識まで持っていけそうなのは、救いなのかそうでないのかどちらだろうね。あちらでストレスなくすごせるなら、きつい仕事で厭世的になり自殺した人にも救いになると思うので、もしそれだったらよいのだが。