紳堂助教授帝都怪異考 二 才媛編

内容(「BOOK」データベースより)
女性から熱い視線を注がれる、帝国大助教授の美青年。大正ロマン謳歌する帝都東京で、紳堂麗児は時代の先端を行く洒落た粋人でもある。だが、彼にはもう一つの側面がある。近代化が進むこの大正において、古来から伝わる知識の系譜“魔道”にも通じているというのだ。因習と近代の狭間を縦横に行き来する紳堂の下には、自然と怪異が引き寄せられる。それは美しいものあり、妖しいものあり―。待望の紳堂助教授の不可思議な事件簿、第2弾。

 冒頭で、アキヲは14歳で数えで16だが、『生まれてから今まで生きてきた時間を計算するほうが僕は自然だと思う』と言っているのを見て、そういえば戦前まで数えで年齢数えていたということを思い出した。
 「乙女の香り」美作中尉はアキヲをまだ男だと思っているはずなのに、妹の春奈とアキヲをよく2人きりで、初邂逅させることによく美作は同意したな。まあ、紳堂が頼んで、アキヲが落ち込んでいたからという理由はあるから、認めたんだろうが、それでもまだ心配しているが(笑)しかし、紳堂は、アキヲが前回の一件以来落ち込んでいることを気遣って、春奈と会わせようとして、そのことで美作にわざわざ貸しにしておいてくれてもいいと、キャラに似合わず言っているのだから、そのことからもかなりアキヲのことを気遣っていることがわかるよ。
 しかし、紳堂が春奈の検診をしているというのか、ということは医学部の助教授なのかな、あまりにも紳堂の本職の助教授の仕事に関係する描写がないから、すっかり忘れている(笑)。
 紳堂、アキヲが香水をつけていることに対して、『僕の知らないところで大人になろうとしないでくれないか。/……きみが大人になっていくところを、僕はできるだけ近くで見ていたいんだ』(P85)なんて恥ずかしそうに言ったとは、手元でアキヲが育っていくさまを見ていたいなんて、案外独占欲が強いのね。もう、ロリコンであらせられるのには今更何も言うまい(笑)。しかし、紳堂は自制して、彼なりの最大級の好意や恋愛感情は直截には見せていないが、隠して更に単なる好意だと思わせていることによって、変態(紳士)っぽさが増すのは何故だろう。
 「貫間邸同時多発的殺人未遂未遂事件」貫間家、戦後で、華族制が配されたとかではないのだし、華族ってどういう経緯で華族でなくなったのだろう? 華族について詳しく知らないから、華族でなくなる理由もさっぱり見当が付かないよ。
 しかし、『この頃は人々が自分なりの居場所と幸せの見つけ方を知っていた頃でもある。』というのは、単に階級が(少なくとも多くの人にとっては)当然の前提としてあったからこそのものだから、少なくとも現在の価値観を持っている人が当時に行っても、現在より幸せにはなれないだろうな。
 そして、茶番の解決の段に、企ての1つを明かす際に、演出としても、実際にナイフを床に落として突き立たせたことには、その企てよりも床の傷のほうが気になってしまった(笑)。しかし、紳堂が来た意味があったのかと疑問に思っていたが、弟は普通に殺人を起こしそうな感じがなきにしもあらずだから、一応紳堂が来た意味はあったのかな。アキヲは、『そう、この感動には錯覚がある。紳堂麗児が鮮やか過ぎるほど鮮やかに邪心を暴きたてたことにより、悪だくみをしただけでそれを実行に移さなかった、あるいは移せなかった面々まで、まるで自分の罪が白日の下に晒されたかのような心地になってしまっているのだった。』なんて内心で述べているが、詳しくないから知らないけど、殺人予備罪(刑法201条)は成立するのではなかろうか?そう考えたら、実際白日の下に罪が晒されてはいるのだが。
 「満月に桃」紳堂、叔母ともかつて付き合っていて、アキヲに好意を寄せているのに、その2人と旅行をするとはなんとも豪胆。人間の睡眠は2時間周期って、90分だと思っていたけど勘違いと思って、ググって見たらやはり90分(個人差があって2時間周期という人も居るようだが)、ということは当時は2時間と思われていたということかな、よく分からんから推測だが。しかし、アキヲの叔母の時子、一夜で一週間分の時間が流れたことに、軽く首をひねるくらいで済ませているのは、どうよ(笑)。アキヲの学校もそうだが、あなたも新聞記者なんだから、そのくらい連続で行かなきゃいろいろ問題となると思うが、大丈夫なのか?と思っていたら、次の短編で形式上は新聞記者だが、実際は専属のルポライターというような形と書いてあったから、単なる新聞記者よりもそういうところは緩いのかな?現代の専属ルポライターがどういう風に仕事をしているかよくわからないから、そう説明されれば、ふうんそうなのかなと思うくらいで、なるほど納得だ、とはならないけど。
 「鵺」時子がカメラを携帯しているが、小型かつ軽量で、フィルムを使ったカメラは、1925年にドイツで発売された「ライカI」が始まり、しかしその原型となるカメラは1914年ごろ既に試作されており、数年前に紳堂は洋行をしていたため、「彼が魔道的な手法でそれを入手したとばかりは言い切れない」とわざわざ説明しているのに、魔動的な手法で入手したわけではないと断言していない、その歯切れの悪さが何か笑える。
 鵺が東京に出てくることに、アキヲは少し疑問に思っているが、物品が日本にあるとはいえ、海外の精霊だか何だかが既に出てきている、というか1巻の最初の話から出てきているから、場所がどうこういっていることにちょっと虚を突かれた。そうした物品とかについてくるとか、特殊な事情がない限り、海外のそうした超常現象を起こすモノが場所を隔てて日本で現出するなんてことはない、という世界なのね。
 しかし、紳堂は猫にももてるのね(笑)。あと、この世界の猫は(特別な猫でなくとも)、紳堂のような魔道に通じた人間と話すことができるのね。
 紳堂は、怪老との戦いで『油断も過信も無かったが、せめて一言くらいかけてやろうという慈悲』というのは、言い方変えただけかと(笑)、いわれなきゃ気にしないのに、地の文でわざわざフォローに回っているからちょっと笑ってしまう。
 鵺騒動が終わった後、紳堂は欠伸をしているところをアキヲに見咎められて、不機嫌になられたが、鵺についての説明によって、彼女の不機嫌さを払拭してホッとしているのを見るに中々本格的に惚れているようだな。通常の女性では不機嫌になられても、機嫌をなおそうとしても、普通の人相手にはもっと余裕をもって接していて、機嫌をなおした程度で「ホッと」はしないように思うから、まあ、勝手なイメージなんですけど(笑)。
 しかし、最後の一年後に書いたアキヲの手記の追記の『あの頃の僕が子供だったから?ええ、子供でしたよ。』というのは、ひょっとして1年で進展あったか!と思ったが、そのすぐ後に『今も子供ですよ。』と続いて、どうも1年では関係はあまり進展していなさそうで少しがっかり。その推測が外れて、進展してくれれば、嬉しいのだけど。