ワセダ三畳青春記

ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)

ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
三畳一間、家賃月1万2千円。ワセダのぼろアパート野々村荘に入居した私はケッタイ極まる住人たちと、アイドル性豊かな大家のおばちゃんに翻弄される。一方、私も探検部の仲間と幻覚植物の人体実験をしたり、三味線屋台でひと儲けを企んだり。金と欲のバブル時代も、不況と失望の九〇年代にも気づかず、能天気な日々を過ごしたバカ者たちのおかしくて、ちょっと切ない青春物語。


 高野さんの本は読みやすいから、高野さんの名前を知ってからそんなに日がたっていないのに、なんか結構な量を読んでいるなあ。
 『ぼくも驚いたんだけど、平井さんって本人は小説を書いているつもりはないんだよ。全部、事実を書いてるんだってさ。』(P14)平井和正さんの小説は読んだことがないが、SFだかファンタジーだかの小説を書いている作家さんという認識だったので驚いた、一応Wikiで確かめてみたらやはりSF作家とあったので、たとえば「幻魔大戦」にでてくる幻魔を実際に見たと認識して、事実を書いていると思っているというような奇人である、とは知らなかった。
 探検部で山形に行ったとき、東北弁がわからないから通訳として福島県出身の人を連れて行ったが、山県と福島じゃ訛りが違うからわからなかったという、同じ日本語でも方言で話されるとは聞き取ることが困難になるというエピソードを見ると、言語と方言の区別が曖昧であるということ事実を再認識する。
 大家さんは高野さんたちが住んでいる野々村荘の隣に住んでいるが、大家のおばちゃんのロックンローラーである長男の怒鳴り声がしばしば聞こえたが暴力は振るっておらず、物も壊さずに、いらないカセットテープを積み上げて起こったときにはそれをひっくり返すようにしているというのは面白いし、『「ダメだ、そんなんじゃあ!大根はな、こうやって切るんだあ!」というやつで、その直後、タンタンタンタンとすごいスピードで彼が包丁を使う音が聞こえてきた。なぜ、彼が大根切りごときに癇癪を起こすのかも、またなぜロックンローラーが何十年も主婦をしている母親よりも包丁使いに長けているのかも不明だ』(P25)というエピソードは笑わずにはいられない。
 「守銭奴」さん、単に自分の金を惜しむだけでなく、『この人は自分と他人の区別を超えて、すべてを惜しんでいるのだ。あらゆるものにケチなのだ。』(P36)というのは、単なるケチとは一線を画しているなあ。しかし、この人に限らず、この野々村荘にすむ面々は皆なかなか個性的だな。まあ、野々村荘のようなところでは普通にくらしているより他人の個性が見えやすく、その分だけそういうエピソードを見聞する機会が多いというのもあるだろうから、単に変人揃いであるといっていいのかはわからないが。
 レトルトカレーを面倒だから冷たいままご飯にかけて食べていたというのは、個人的にはカレーほど冷たいか暖かいかが見た目にも味にも影響する食べ物はないと思うので、流石にないわ、どんだけものぐさなのだと呆れてしまうわ。また、カレーやとん汁を一度作ると、毎日同じものを食べ、20食くらい同じものを食べていたという食生活には呆れすら通り越すよ。
 高野さんが外国へ行って不在の時には、仮の住人が随時入れ替わっていて、帰ってきたときには最初又貸しした人とは別の知り合いが住んでいたということがあるというのはすごいな、そして、それを受け入れる大家さんの博愛精神はあっぱれ。
 第二章は、森見さんの「四畳半神話体系」とかが好きなら楽しめそうな感じのエピソード群だなあ。アサガオのエピソードのところで、しばらく目がピンボケ状態になってしまったという話は、ああ、そうした焦点があわないような状態って辛いよねと同情してしまう、僕は高野さん見たく変なものを食べたとかじゃなくて原因不明だが今まで2回そうした目の焦点があわない状態になったことがあるのだが、個人的に趣味は読書ぐらいしかないのにそれができないから寝ていることしかできないのが辛かったなあ。水泳をやるのにラジカル加藤さんは、まず一年間で体と飛び込みをまず鍛えて、泳ぎまで行き着かなかったという話は面白くて好き(笑)。他にも、三味線の話とか宣伝と称し商品を配布する謎の人物の話も好きだなあ。
 後輩2人にプロレスを布教したときに、ノリのいい人間よりも理屈っぽい人間の方が、正面から異議を唱えていても、高野さんのプロレスを擁護する理論が正しいのか見極めるために一生懸命に見るから、洗脳しやすいことがわかった、というのにはなるほどなあ。 高野さんの著作では毎度のことだが、あとがきで、露骨に自分の過去作やかつて翻訳した本を露骨に宣伝しているのは、はじめに見たときは呆れ半分だったが、何回も見ると味が出てきて面白く思えてくるなあ。