バベットの晩餐会

バベットの晩餐会 (ちくま文庫)

バベットの晩餐会 (ちくま文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
女中バベットは富くじで当てた1万フランをはたいて、祝宴に海亀のスープやブリニのデミドフ風など本格的なフランス料理を準備する。その料理はまさに芸術だった…。寓話的な語り口で、“美”こそ最高とする芸術観・人生観を表現し、不思議な雰囲気の「バベットの晩餐会」(1987年度アカデミー賞外国語映画賞受賞の原作)。中年の画家が美しい娘を指一本ふれないで誘惑する、遺作の「エーレンガート」を併録。

 食事についての話が好きなので、以前からこの小説が少し気になっていたのだが、表題作が、ある田舎の村で宮廷からきた将軍がただ一人、バベットが作る料理の真価というか、どれだけ素晴らしい洗練されたものかというのがわかり、こんなところでこんな料理を食べることに驚くというような説明をどこだかのブログで拝見してから、ぜひ読みたいという気分になったので、早速読んだ。しかし、表題作の「バベットの晩餐会」だけで本になっているのかと思っていたら、もう一つ「エーレンガード」という中篇(しかも、こっちの方が長い)も含めた中篇集だったということを購入してから気がついた。
 なんかこの人の小説は地の文がちょっと普通の小説とは違うな、どこかでこういう地の文もみたことある気がするけどどういう類のものだったのか思い出せないなあ、うーむ、児童文学だったか、それとも民話とかそういう感じだったか、ともかくナレーション的な、神の視点ではなく「エーレンガード」のようにある人物がある昔の出来事について語っているというような感じが「バベットの晩餐会」においてもある。
 フランスで名のある料理人であるバベットの紹介状に、さらっと『バベットには、料理ができます。』(P29)とだけ書かれてあるのは以前どこかで読んだブログにもここを紹介していたが、なんかすごいな、紹介者は優れた料理人だということは彼女に料理を任せていればわかると思ったのだろうが、雇い主の姉妹が質素な料理を好んだから、それを長らく発揮することもなく、雇い主たちは彼女が偉大な料理人だということを気がつかなかったのだけど。
 しかし、この晩餐において村の人々は料理の価値はわからずとも、食べる前は変なものを食べさせられるのではという疑念さえ持っていたのに、食卓の雰囲気が普段よりも非常に明るいものとなっている、というのを見るとバベットの料理がそれだけ美味しいものだということがよくわかるし、美味しい食事というのが味だけでなく、多くの人の気分すら大きく変えてしまう素晴らしい効果をもったものということも知ることができる。そして、将軍がワインやスープの上手さに驚いているのを見るのもまた楽しい。
 「エーレンガード」芸術家の美と恋の話だが、個人的にはいまいち関心のないテーマであり色恋の機微についてはよくわからないし、あとは、はじめは「バベットの晩餐会」で1冊というつもりだったので、集中力が散漫な状態で読み進めてしまったということもあり、どうも感想が出てこないなあ。まあ、カゾッテ氏にとっては彼女の美しさを自分が一番よく知っているのに永遠に手が届かなくなるよりも、決闘によって、虚構だがエーレンガードの愛人という立場で、死んだほうが、死んだあとも彼女にとっても自分が特別な位置の人間になるだろうから、そっちのほうが本望だったのかな。