折れた竜骨 下

内容(「BOOK」データベースより)
自然の要塞であったはずの島で、偉大なるソロンの領主は暗殺騎士の魔術に斃れた。“走狗”候補の八人の容疑者、沈められた封印の鐘、塔上の牢から忽然と消えた不死の青年―そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ?魔術や呪いが跋扈する世界の中で、推理の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?第64回日本推理作家協会賞を受賞した、瞠目の本格推理巨編。

 下巻では戦闘シーンなどもあり、それら推理とは関係ない場面での描写もすごく魅力的で面白かった。
 食事をしているシーンが、一気にファルクへの暗殺未遂へ変転して、戦闘シーンに入ったのは下巻の最初から緊張感があっていいね。戦闘が終わって、アミーナが一度気絶して眼を覚ました後、彼の姿を見るまでファルクがどのような状態になっているのか気が気でなかった。しかしファルクに毒が残って、戦力ダウンになるのは厳しいと思ったが秘薬で一日無理が利くようになったということで、戦力的な減少はないがタイムリミットが付くことになった。しかしアミーナが地の文で秘薬が本当なのか疑問に持っていたから、実際には戦力もダウンしていると思っていたが、その後の呪われたデーン人たちの来襲のときの戦闘のシーンを見ているとその秘薬の効果は確かなものだったみたいだな。
 アミーナから毛皮のマントを渡されるが、ニコラは着るのを遠慮していたが、実際に着用すると「師匠!これ、すごいですよ。風が通りません!」という反応をしているのはとても微笑ましい。
 呪われたデーン人が来襲したことにより戦闘シーンが開始、こんな市民にまで大きな被害が及ぶ戦闘シーンになるとは思わなかったし、また本編中に来襲するかもという考えはもっていなかったので(雪で閉鎖状態になったと思っていたということもあり)、急な来襲にショックを受けた、そして市民が殺されていく中、到着したコンラートの頼もしさといったら!教会から盗みを働いた不逞の輩だが、仕事はしっかりとこなしているのは素敵だ、アダムとか言うアミーナの兄とかその配下の騎士の駄目具合が尋常でなかったということもあり、より一層そうした自らの責務を果し、戦闘で積極果敢に先陣を切ったその勇ましさには非常に好意が持つことができる。しかし勝手に戦闘したとか言われるかもしれないからコンラートが戦闘への突入を躊躇したことをニコラが見て取って、そのことをアミーナに伝え、彼女が戦えと言って戦闘を始めたというのは、そうやって勝手にやったことといわれるのを恐れているのだから、実際にそういう手を使って値切ろうとする狡っからい領主が多いのね。そういう細かいところにもリアリティがあっていいね(笑)。また戦争シーンでアミーナがピンチになったときにトーステンが助けに来たシーンは思いがけないことで吃驚。そしてその戦闘で個性的な傭兵たちが己が才を発揮して、それぞれ活躍しているのはいいね!しかしアダムと騎士どもくそ遅い、役に立たないことこの上ない。
 囚われていたトーステンの脱出について、シチュエーションを聞いて、刀城言耶シリーズの某作での推理を連想したが、それが意外と真相に近かったなあ。
 ファルクが儀式(セレモニー)といって、事件の関係者を集めて走狗が誰であるかを指摘するといったのは、中世でも事件の関係者を集めての解決編をやるのかと少し可笑しかったが、その後ファルクがどういう落とし所にしたかったかを知るとその悲壮な覚悟に胸を打たれる。
 しかしエドウィーが死に、領主の父が死んだだけで、この「家」ガタガタだな、騎士も領主も経験がなく自尊心ばかり高いというどうしようもない状態。この後彼らが心を入れ替えて鍛錬し、警戒を怠らないのであれば見直すけどさ、まあ、そのあたりはその後のアミーナに期待しましょう。
 解決編でもコンラートが詮議されると、ソロンの騎士たちは不機嫌になるし、階級によるプライドだけがあって、その地位に求められる実力や心掛けは全くないのだから嘆かわしい。
 解決はビターな結末に。決して未来が明るいラストだが、終章のニコラとアミーナの会話で2人には強い絆が結ばれていることがわかったことは救いだ。