告白

告白 (角川文庫)

告白 (角川文庫)

内容紹介
北朝鮮からの帰還者が、すべての真実を明かす衝撃の手記。待望の文庫化!
米国軍時代、北朝鮮への脱走、妻・ひとみとの出会い、日本への脱出、日本での生活…ジェンキンス氏がすべてを明かす衝撃の手記。文庫版には妻ひとみさんによるまえがきも収録。


 文庫になったときに一度買おうか迷っていたから、店頭で少し流し読みしてはいたのだが、当時は小説とかライトノベル以外は、それらの他にお勉強にならずに面白く思える本があるのかどうか知らなかったのと、また小説での世界観やキャラ同士の関係で現実世界を学んでいたみたいなところがあったから、少ない小遣いで小説以外を購入してまで読むには少し躊躇したので結局購入せずにいが、最近になって蓮池薫さんの本を読み終えてから、再び拉致関係の本を読みたいと思う気持ちが増したので、ずっと前から読みたいと思っていたけど購入する機会を逸し続けていたこの本を読了。まあジェンキンスさんは拉致とは違うけどね。しかし、はじめに読みたいと思ってから、6年以上たってようやく読了とは我ながらずいぶん長い間読みたいと思ったままで放っておいていたな。そして、それと同時にそんな長い間、拉致問題が進展していないことにも気づき、少し気分が沈んでしまう。
 まず冒頭にある写真のページの6P目(ページ番号ないけど)の右下の写真に犬が写っているが、その写真のキャプションに「犬はただの野良犬。」とあるのには思わず笑ってしまった。
 ジェンキンスさん、徴兵じゃなくて志願して陸軍に入り、韓国へ行けば出世が早いと聞き韓国に行ったもののベトナム行きになるかもしれないという不安から北朝鮮へ逃亡したとはなんとまあ、軽率な。当初の彼の予定では、ソ連に引き渡してもらって外交ルートで米国に送還してもらい、そこで脱走の罪を引き受けようというもので、北朝鮮に何十年もいることになるとは予想だにしていなかった。しかし、いくら軽率な行動だったとはいえ、その後数十年の北朝鮮という国に幽閉されなければならない程の行いではないのだから、もしその行動の償いを運命が強いているのだとしたら、それはあまりにも重過ぎるものだった。
 もし北朝鮮に拉致されたなら国際紛争になっても、彼を奪還する義務があったが、真相がどうなのかわからなかったため、米軍、北朝鮮へ渡ると記した母への手紙という証拠を捏造した。というのは、たまたま真相と合致していたからいいものの、そうじゃなかったら一人の国民を見捨てるという事態になるものだから恐ろしいなあ。
 レバノン人のシハム、イタリア在住の母が探偵を雇い、北朝鮮にいることを突き止め、お偉方のルートで北朝鮮に圧力をかけて、シハムは出国できたが、既に妊娠していたため送り返されたというのは、どういう経緯で一旦でも奪還できたのかは知りたいが、それよりもいくら宗教的な事情なのかもしれないがせっかく奪還した娘を送り返すのはどうなのよ。しかし、いくつもの国から拉致したり出国できないようにしたりして、国内に拘束している理由がいまいちわからんのよね。まあ、拉致という事実が表になった現在だからこそ、それらのことはリスキーすぎると感じるから、そこまでする理由が見出せないだけかもしれないけど。
 曽我さんとはじめてあったときの描写、後に結婚するだけに最初から褒めているが、本当に最初からそんな印象だったのか、と疑いたくなってしまう自分は心が汚いのだろうな。
 曽我さんと曽我さんの母は、酒好きの曽我さんの父から逃げた、あるいは自殺したのだと佐渡では噂された、というのを聞くと残された父と妹の気持ち、そして真相を知ったときの気持ちは察するに余りある。
 養蜂用の巣箱を3つ持っていて、それで春と夏に毎年4、50キロの蜂蜜が取れたというのは蜂蜜ってそんなに量が取れるものなんだ、と少し驚いた。
 娘たち「私たちが暮らしているこの国は本当の世界とはかけ離れている。ここは普通の世界ではないのだ」とよく言っていたが信じていなかった、とのことだが、それは外国の情報が著しく制限されているし、外国との接点が少ない中で、厳しい現実(北朝鮮)とかけ離れた豊穣な世界をリアルと感じることは難しいだろうな。
 曽我さんが、北朝鮮から脱出してから丸一年も酒びたりになり、日本政府が北朝鮮への帰国を認めないという指導員の言を完全に信じてしまっていた、という曽我さんが近くにいたなら恐らく信じなかったであろうことを信じてしまっているところをみると、いかに曽我さんのことを大切に思っているのかがわかるよ。
 裁判は日本政府の要請とは関係なく(ここにくるまでは計り知れない支援を受けた、と感謝しているが)公正に行われ軽微な刑で済んだという説明は納得、正直事実がきちんと採用されれば元々大きな罪というわけでもないようだし、日本にアメリカの事情に踏み入る交渉力があるとは思えないし、そんな干渉を許すアメリカでもないだろうから腑に落ちた。
 日本の駐インドネシア大使公邸に行ったときに、電話で妹のパットから電話を受けたシーンはいいねえ。
 北朝鮮からの脱出以後のエピソードは、解放され、自由になったという喜びが文章から伝わってくるようで、読んでいるこちらも嬉しくなってくるので何度も読み返したくなるくらいに好きだなあ。なんにせよ、現在(といっても8年も前だが)ジェンキンスさんがようやく「普通の」世界で幸せに暮らしていることには安堵する。