貴族探偵

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か?捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。斬新かつ精緻なトリックと強烈なキャラクターが融合した、かつてないディテクティブ・ミステリ、ここに誕生!傑作5編を収録。

 ワトソン役の(範疇を超越している)使用人が状況を調べるだけでなく、推理もその使用人に任せるなんて安楽椅子探偵どころかの騒ぎじゃないな(笑)。自分で推理すらしないで探偵なんて斬新過ぎる。使用人が露骨にほのめかしたり、主人を答えに誘導するのであれば「木更津」だが、これはもう解決の段に至っても、自分で説明せずに使用人に説明させているし、他の面々と一緒になって推理を聞いているのは笑える。貴族探偵の彼は、使用人は自分の手足で所有物だから、自分がやっているのと変わらないと説明しているのが笑える。しかし貴族探偵には名探偵にふさわしい態度や華、キャラクターがある。一方使用人は主人の前だから出しゃばらないようにしているということもあり没個性的だが、状況を調べて推理する名探偵としてのスキル、頭脳を持っている。そして事件を解決する使用人は一人の固定した人ではなく、3人いて、そうした事件を解決する役は代替可能なのが普通の推理小説ではありえないから吃驚してしまう。究極の安楽椅子探偵である貴族探偵は名探偵の極北だな。
 貴族探偵はプレイボーイだけど色欲のいやらしさが感じられないし、態度が常人離れしているということもあり、不思議と爽やかだな。女性にはそれなりに動かされているが、それでも見栄を張ったりせずに、常に使用人に状況を調べさせるとこから推理させるところまでやらせて、一向にそのスタイルを変えないし、「私の頭脳はそこにいる三人です」と使用人を指し示し、自分はその主人なのだから自分の身体の延長として彼らを捉えており、自分の見せ場を作ろうと使用人から推理を聞いて解決のときに話そうとするなど、変な見栄を張ろうとせず彼にとっての自然体で行動しているのはいいね。
 最後の短編を見るまで貴族というのは、現実の日本は貴族はいないので、自称だと思っていたら貴族制の残っている日本という設定だったと知り、推理せず読んでいるのでその部分はこの本でも屈指に驚いた部分だ(笑)。だから物凄いコネのある大富豪の子息か、あとは実は皇族かと思っていたよ。だから後者だとしたら相当チャレンジャーだなあ、と思って読んでいたわ。
 しかし偉い人のようだから、無理やり事件に入ってきても、その操作している人の上役に電話して説得させるという手法で、毎回事件に入ってくるが導入が楽そうでいいねえ。それにいかにも探偵然とした彼が好きに首を突っ込んでいるんだから、中途半端に(苦しい)理由付けしようとするより、ずっと納得できる。というか自然に感じる。
 「こうもり」真相がわかったときにかなり混乱した。こうした地の文で騙す話は毎回真相が明かされたときに吃驚してしまう。