薔薇のマリア 19


内容(「BOOK」データベースより)
マリアたちの決死の敢行で“獄の獄”から完全復活を遂げたトマトクン。激戦のシャッコーに舞い戻ると、かつてない強さで悪魔たちを押し戻していく。そんな中、宙に浮かぶエルデンと共に、伝説の魔導王が姿を現し!?一方、幾万もの悪魔に取り囲まれ、防戦一方のワールオックの孤城に、アジアン率いる昼飯時の援軍が近づいていた。そのわずかな希望に城内の戦士たちは息を吹き返し、秩序の番人がついに攻勢に出るのだった!

 「薔薇のマリア」シリーズは次回で最終巻か!あとがきで、シリーズ開始当初の予定で「最低本編20冊+外伝数冊」という規模の物語だったので、十文字さんの強い願いによって当初の予定の最低限の本編の冊数である20巻まで出すことを編集部が了承したと書いてあるが、巻数の制限がなかったら他に書いてくれたであろうストーリーがあると思うと少し残念だし、自由にやるのに十分な部数を買い支えることが出来なかった(布教も複数冊買いもやらなかった)のはファンの一人として今更ながらちょっと後悔している。しかしだからこそ、この巻などがこんなにも密度の濃い物語になった、と考えて自分を慰めるしかない。まあ、なんにせよ最後までこのシリーズにお付き合いさせていただくつもりです。
 スニーカー文庫のシリーズで現在出たら買うだろうというシリーズがこれとハルヒしかないので、いつ変わったのかわからないけどいつのまにやらスニーカー文庫の背表紙のデザインが変わっているね。
 冒頭の孫息子の語りで、周りの人が悪魔たちに殺されながらも必死になって祖母と共に逃げていって、それでも逃げ切れなくて、彼を庇って祖母が大怪我を負って孫の彼に向かって笑いかけながら、いい人生だったよ、『お前にも感謝しないとね。ありがとう。いい子だね。本当にいい子だ。お前みたいな孫がいて幸せだよ。愛しているよ』(P13)と言っているのには思わず涙腺が緩んでしまう。今回初登場のキャラな上にたった数ページの描写の積み重ねしかないので、普通ならこんな展開は安っぽいと思ってしまうだろうに、こんな感情移入させるなんて、やっぱりこのシリーズは凄いわ。十文字さんは「薔薇のマリア」の殺伐とした世界観の中でキャラクターを凄くリアリティを持って描き出していて、このようなモブキャラでもしっかりと人格や感情を現実的に描き出しているのはため息が漏れるほど素晴らしい。
 今回はネームドキャラがどんどんと死んでいくが、誰もが絶望的な状況で血と泥にまみれ死んだり生き残ったりしながらも、誰もが前向きに後悔を抱かずに勇敢に戦って死んだということもあり、不思議なすがすがしさがある。それに死亡シーンが美しいキャラもまた多いこと、例えば荊王とか!。そして死人が続々と出るのはある意味世界観ともマッチしているということもあり、また物語も人も余計なことを考える暇もなく動き続けているから、大変なことが起こっているとは思いながらも重苦しくて読んでいられないという気分になる前に、読んでいるても次の場面次の局面へと押し流されていったので、精神が沈鬱になってしまうこともない。それに戦闘シーンも物量に押されて劣勢なっているものの、多くのキャラが大立ち回りして悪魔たちを多数撃破する活躍を見せているということもあり面白い。残念ながらそれが最後に輝きになってしまったキャラもいるが。
 アジアンが仲間を助けるために異形の姿を晒し、更にその異形に精神までも徐々に侵食され精神が危うくなって、更に仲間が死んでいるかもしれないのに笑うことができてしまい、心と体がバラバラになりそうと重いながらも、その力で仲間を守ることが出来ることで満足して『ボクは大丈夫だ。これ以上何を望めばいいというのだろう。』(P34)と仲間を守るために自分が仲間から離れていくような恐怖を味わいつつもそんな風に自分に言い聞かせているのはなんて悲しくも美しい献身だろう。
 マリアローズが自分の非力ゆえに助けられずに、見捨てる選択をしなければいけなくて心の痛みに耐えながら他の人たちと共に逃げ続ける。そんな状態でも周囲の人に目を閉じるのではなく、自分に助けられる人は助けているすがたは非常に気高く美しいもののように感じる。それにマリアローズは自分の非力さを痛感しながらも絶望せずに常に前を向き続ける決心をしている、苦しくても友と生きるために生を選んでいる実に人間的でいいな。
 SIXやアジアンが無敵でもそれでも仲間を守るには足りないということには、「みんな纏めて ヒーローになるようです」のやる夫の台詞を思い出し、その言葉の内容が現出したらこのような悲惨な状況になるのかと思った。閑話休題
 グレヒャはこの異常事態の中で剣士として長足の進歩を遂げている、この時代を生き残れば語り継がれるものになるだろう、でも語り継ぐものが生き残っているかどうか、と考えていた矢先に死亡かあ。しかも死体(外見)が利用されるという屈辱のおまけつきだ、そんな敵を殺してくれた荊王はいい活躍したよ、両者とも安らかに眠っておくれ。
 ヨハンのイラストがあるけど、もっとシャープだった印象があるけど思ったよりも顔が丸っこいのね。こんな異常事態で良家の子息とか普通の大学生みたいな顔だから、いまいちこの場に似つかわしくない外見に感じるよ。もうちょっと疲れとか汚れが描かれていたらよかったんだけど、まあ、それは贅沢な要求か。
 飛燕が操られた時に不完全ながら身体の支配権が取り戻せているときに、トワニングに見舞われた一撃は冗談抜きで瀕死になるほどの威力だったというのは、思っていたよりもトワニングって強いんだと今更ながら驚いた。
 グッダー、カラーイラストにも登場しているが、片足の靴だけちょっと見えているのが少し可愛らしい。彼は威厳をもって登場したのに、グッダービーム、グッダーリフトなんて技名を使っている上に、変な下卑た笑い方をしているのには思わず脱力。しかし彼はどうにも小悪党めいているよなあ。悪魔たちとの対決のときが来たと彼が勝手に判断して、エルデンが浮上し、大穴が姿を現したのだから、マリアローズが憤るのもわかるよ。しかし反面それまで地上に悪魔の進出を許さなかったのも彼がエルデンを大穴をふさぐように置いたためというのだから、判断に困るわ。まあ、とにもかくにもこうなった以上悪魔をどうにかせねばならないということには変わりないか。しかし大口叩いて直ぐにマリアの金的がヒットして苦悶しているのは、しまらない男だなグッダー(笑)。まあ、そんなことをしてもエルデンが崩壊しかけたときにトワニングたちを助けてくれたりと、こいつはにくい相手ではあるものの別段敵対するわけでもないから、読んでいる身としては評価が難しいな。
 ファニー・フランクの副官で髭をつけて男装した女性であるジャン・スタンバックのイラストがあるが、彼女はもっと鋭い目つきで渋い感じの(ナイスミドル的な)外見をしているのかと思いきや、なんだか見た目から女性っぽくコスプレっぽい感じだな。うーん彼女って前にもイラストが出てたっけ、その辺いまいち記憶が曖昧。
 飛燕は荊王が死亡したと聞いて、エルデンの彼との思い出がある隠れ家に赴き、素直に寂しいとか悲しいといわずに、独り言を口に出して死んだ荊王に話しかけるようにして取り留めようのないことを語っているのは飛燕の喪失感の大きさを表すようで印象深かった。
 295ページの長髪でポニーテール姿となったトマトクンが不敵な笑みを見せながら、片手で剣を振りかぶっているのは、なんだか格好やイラストの雰囲気的にサムライっぽく感じてしまった。