チア男子

チア男子!! (集英社文庫)

チア男子!! (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
大学1年生の晴希は、道場の長男として幼い頃から柔道を続けてきた。だが、負けなしの姉と比べて自分の限界を悟っていた晴希は、怪我をきっかけに柔道部を退部する。同時期に部をやめた幼なじみの一馬に誘われ、大学チア初の男子チームを結成することになるが、集まってきたのは個性的すぎるメンバーで…。チアリーディングに青春をかける男子たちの、笑いと汗と涙の感動ストーリー。

 朝井さんの小説を読むのは、「桐島、部活やめるってよ」に続き2冊目(まあ、読んでから購入したのではなくて、桐島を積んでいる最中に、既に買ってはいたけど)だが、かなり「桐島」とは毛色の違う作品で驚いた。まるっきり0から男子のチアチームを作ろうとして、トントン拍子で仲間が集まっていくとか、少年漫画のスポーツものの最初のほうみたいなノリだなあ。キャラクターも、どこでも見るような個性による、類型的な書き分けだし。学祭後に登場した新しいメンバーたちは、もっとそういう傾向強くて、それがあるからかろうじてキャラが識別できる程度で、描写が初期面子に比べれば当然かもしれないが大分薄いなあ、まあ、1巻完結の小説で、馴染みのないスポーツを取り扱っていて、説明を多くせざるを得ないという事情があるから、そんなキャラクターを掘り下げられないのかもしれないけど。あと、チアリーディングの技名を記されて全く馴染みがないから、描写されても、いまいちその説明的な描写がなされているところではボヤっと覚えるが数ページ後には忘れてしまう(苦笑)。
 溝口の登場シーンのインパクトは強いなあ、勝手に一馬と晴希の後ろについていっているって怖いわ(笑)。
 それと晴子、弟の晴希のことを「ハル」と呼んでいるのか、なんか自分も同じ愛称を付けられそうな名前だから、そういう呼び方しているのはちょっと不思議。あと、中学3年のとき、自分に嫌味を言った男子柔道部部長に飛びかかったがかなわずに落ち込んでいるとき「ハルは男だもん」と、強い身体を手に入れられることを羨ましいと感じていていることを言葉にしたが、結果的に弟も身長伸びなかったから、彼は結果として体格という点ですら才能ある柔道家の姉にあまり羨まれるような立場にもなれなかったことは少し可哀そうだ。
 いくら地面が芝生でも公園で倒立とかバク転の練習って危なくないか、と思うのだが、スポーツ経験がないから過度に危険を感じるだけなのかな?
 翔を勧誘するために、本気度を見せるため全員がバク転を習得するまでの「3 七人目」の最後のほうのシーンでメンバーみんなの内心が描かれているのは良かった。
 溝口、同じ大学の強豪のチアチームDREAMSと合同練習の約束を取り付けたとは、いったいどんなコネがあるのか、と思ったら、自分たちのことを実力のあるチームと嘘をついて合同練習の約束を取り付けたとは、その糞度胸はすげえな、でも他のメンバーがいたたまれない、だって少なくとも僕はそんな空気の中にいたくないもの(笑)。それと溝口は、ユニフォームや練習器具を購入するとは金持ちだなあ、というか何ヶ月かで素人集団のチームをある程度のレベルまで押し上げるのに、練習器具すら十分でないのは流石にリアリティがなさすぎだから、そういうご都合的なものは必須とはいえ、彼ばかり金銭的な負担をしているのはちょっと違和感がある。
 学祭の舞台で演技をするから、お客を集めるため、その前日にユニフォーム姿で学食に行き食事をしながら大声で舞台の時間を宣伝しているさまは可笑しい(笑)。
 千祐、接点が体育ぐらいだろうに、おかしなほどいい雰囲気に見えるのはなぜだろうと思っていたら、遠野の彼女だったとは、……まあ、晴希、ドンマイ。
 祖母が死んで、「俺のことを見てくれる人が、一人もいなくなっちまった」といった数馬の天涯孤独になってしまった寂しさを表した、この切ない言葉は胸を打つ。
 全国選手権の会場へ、応援の人やDREAMSの面々と一緒にバス移動している最中のほのぼのとしたシーンは、すごい好きだな。