戦前昭和の社会 1926-1945

戦前昭和の社会 1926-1945 (講談社現代新書)

戦前昭和の社会 1926-1945 (講談社現代新書)

内容説明
「暗い時代」の明るい日常生活
「十銭均一売場」に足を運ぶ消費者、女性の地位向上を推進するモダンガール、新興宗教ブーム、就職難にあえぐ学生――。
現代社会の原点=戦前を生きた人びとの実像を描き出す一冊。


 大正・昭和の華やかな時代についての話が読みたかったので、その時代を範囲に含んでいるこの本を読了。
 無論戦前までの話だからそれ以外の時代の話も多量に含んでいるけど。しかし、大正ロマン・昭和モダンといった華やかな時代における、貧富の格差とか貧しい人々の話をプロレタリア系の著述者の本から引用してきていたり、路上観察者が記録したものを引用してきて当時の街の様子を知ることができるは、面白い。路上観察といった方式で書かれた本が色々とあるようだが、どれも面白そう、何か入手容易そうなものがあればぜひ読みたい。
 サンソム婦人が「東京に暮らす」(岩波文庫)で『みんなが何でも買えるというわけではないにせよ、この商品は特定の人しか所有できないといった階級差別はありません。』(P24)と書いているようだが、そういうのは現代でもブランド品を、金持ちに限らず誰でも買う、というようなことにもつながっているのだろうな。海外では現在か少し前まで、そういうものを買うのは、ある特定の層で、日本みたいにそんなお金持ちでない人が一点豪華主義で1つ、2つ持つといういことはなかったようだし。
 不況中はデパートのある帝都の中心街でも工事半ばで放置された建物が多く、また国が建てる国会議事堂や警視庁、内務省庁舎ですら工事を中止していたということには吃驚してしまう。
 戦前から映画を通したアメリカ化が進んでいて、それは他の国でも同様で英国ではそんな潮流に反発して、アメリカ映画を規制する法案もできていたほどだったが、日本では国際的な潮流である反アメリカ文化=反アメリカ大衆消費文化の動きは限定的だった。そして大衆消費社会の形成によるアメリカ化から、同時代人の安藤更正は「銀座細見:で『日本人の多くは、今やアメリカを通じてのみ世界を理解しようとしている』(P63)と述べている。それらの背景があったから、アメリカの統治が上手くいったという側面もあったのかな。
 「エロ・グロ・ナンセンス」の「ナンセンス」は大衆が政党政治、とくに二大政党制に投げかけた言葉でもあったということは知らなかった。
 農村においては、男性と女性は対等な労働力だったということもあって、戦前における女性解放運動は、都市の知的な職業婦人よりも農村の無学な女性たちがその歴史的な前提条件を築いた。
 格差是正を求める社会的なムードもあるが、一向に改善されない格差から、教祖の下での平等感が享受でき、男女格差も夫婦格差もないモダンなスタイルをまとって、現世利益の追求を後押ししてくれる新興宗教が広がったが、教祖の下での平等を強調すればするほど天皇制とのあいだで衝突を起こして冬の時代が訪れ、その後格差是正に向かって国民を再統合する社会的な力として戦争がはじまった。
 近衛、あらゆる政治勢力からの支持に応えなくてはならないために、「国防の充実」と「国民生活の安定」という同時に実現することは難しい、「富国」と「強兵」のように両方同時に実現するには金が足りない、ことを散々述べていた。