ルワンダ中央銀行総裁日記

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

内容(「BOOK」データベースより)
一九六五年、経済的に繁栄する日本からアフリカ中央の一小国ルワンダ中央銀行総裁として着任した著者を待つものは、財政と国際収支の恒常的赤字であった―。本書は物理的条件の不利に屈せず、様々の驚きや発見の連続のなかで、あくまで民情に即した経済改革を遂行した日本人総裁の記録である。今回、九四年のルワンダ動乱をめぐる一文を増補し、著者の業績をその後のアフリカ経済の推移のなかに位置づける。

 服部さん格好いい!真にプロフェッショナルな仕事をする人の格好良さについて、この本を読んではじめて本当に感じ取れたように思う。読み終えた後も感想を書くまでに何度もぱらぱらと好きなシーンを読み返している、そのくらいこの本は本当に素晴らしい。
 一国の経済システムを1から作り変えるという大仕事をして、実際に国民の生活が改善するという成果をあげているのに、ちっとも驕っていないのは本当に素敵だ。
 ほとんどルワンダについて何も知らない(情報が少なすぎて知れない)ままに、国際通貨基金から中央銀行総裁として派遣されて、現状の酷さがあっても、ルワンダに在住する外国人の偏見を孕んだ意見を鵜呑みにしたり同調したりせずに、まずはしっかりと国の事情を知ろうとしている。そして、大統領との対談において『私はここの外国人のように知らないことにまで口を出すことはしません。』という風に、推測を一切挟まないようにしているプロフェッショナルさには感服。しかし、大統領が単に発展という成果(工場や都市)を得るのが目標ではなく、大衆生活の改善を望み、そうすることを服部さんに求めているというのは、トップがそういうちゃんとした人でよかったなあ、と心から思う。そして、その大統領との対談のシーンがまたすごくいいんだ、そしてこの対談で大統領に信頼を得たことで、その後活躍のフィールドが広がった。
 あと、関係ないことだけど、戦時中ラバウルに居たと書いてあるが、今村将軍の部隊に居たのかな。
 中央銀行で、服部さんのすぐ下にクンラツという人が付くことがほぼ決まっていたようだが、我の強い性格のようだから、将来意見の相違が起こったときのために、国際通貨基金に総裁の決定が無条件で支持するものという原則を守るように一応基金に手紙を出して、言質をとるような抜け目なさは流石に有能だな。
 しかし、服部さん実務能力だけじゃなくて、商業銀行の件とか、国際通貨基金人頭税の引き上げを突っぱねたところをみるに、結構渉外もできる人なのね。
 当時のルワンダでは、日常生活におけるルワンダ社会と外国人社会が分化していたように、政府においては対ルワンダ国民の仕事は大臣がやり、対外面や近代面は外国人顧問がやるという分裂があった。それなのに、悲しむべきことに政府で仕事をしている外国人顧問の質がそうじて低かった。しかしそれだから、余計に服部さんの活躍がより光っていると感じる面もあるだろうけど。
 大統領から任され一人で大きな経済再建計画を立てたが、それについて少し傲慢に説明を求めに来た商工大臣に、詳しく説明をすると、話の間だんだん体をのりだして熱心に聴いてくれ、最後には今日の話を聞いて目の前が明るくなったといって、全面的に協力するといってくれたエピソード(P191-5)もすごくいい!
 通貨改革を含めた経済再建計画は成功して、服装が目に見えてよくなったりあるいは首都キガリの町での露天市場が5倍に膨れ上がったりと目に見えた効果があったことには読んでいて興奮する!そして、200ドルまでの国境貿易の許可を免除したり、ルワンダでは売っていなかったが多くのルワンダ人商人の規模的には最適な2トントラックを政府で売るようにしたり、更に他のさまざまな政策でルワンダ人商人の育成を図り、実際にそれが成功したというのも読んでいて爽快。また、赤字を出していたバス公社の再建にも着手し、収益を上げるようになった、それに新路線が作られ民衆にも喜ばれ、多数の人間に利用されるようになったというのはいいエピソード。しかし、トラックを改造したバスを2万ドルで売りつけていたが、日本に問い合わせてみたら1万5000ドルでキガリへ売れるというのを聞くとは酷いな、新しくバスを買うのに2万ドルでトラックを改造したバスを売った会社に再度見積もりを出したら、相変わらず同じものを同じ価格で出してきて、それに対して不真面目な見積もりは政府に取り次げないといったら、まともなバスを1万6000ドルで売るといってきたのは、それまでどれだけぼってきたんだよという話ですよ。
 ルワンダを去るにあたって熱心に留任運動がなされたという事実からも、服部さんの功績がよくわかるよ。そして送別会での大蔵大臣の送別の辞は、業績に対する賛辞が大部分だったが、それには『私は感動は無かった。職務を立派に遂行することは棒給に対する当然の対価であって、あたりまえのことをしたからといってほめられることはない。』(P294-5)プロフェッショナル的な態度で格好いい。しかし、そんな服部さんも、自分がルワンダ人を理解しようとした努力を、ルワンダ人が理解したことについては大いに喜びに感じた。