西南シルクロードは密林に消える

西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫)

西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
中国四川省成都を出発し、ビルマ北部を通って、最後にはインドへ―幻の西南シルクロードに挑む著者の前には、圧倒的なジャングルと反政府少数民族ゲリラの支配する世界屈指の秘境がたちふさがっていた。混迷と困難を極める旅なのに、これほど笑えるのはなぜか。究極のエンタメ・ノンフィクションついに登場。


 かなりのボリュームだったので、ちびちびと読み進めていた。
 プロローグで、酔っ払った結果実行するようになった企画と書かれていて笑った。カメラマンである森清さんがその企画に食いついてこなければ、この本も誕生しなかったわけか。しかも、「戦後世界初の西南シルクロード完全踏破」は早々に企画倒れになるし、そんなところからもかなり行き当たりばったりな企画だったことがよくわかる。そして、ゲリラ地帯を行くことで用心してお金を多め(70万円)に持っていっていたが、それがまだジャングルに入る前に盗まれたなど実に波乱万丈な出だしだねえ。
 四川料理は辛いと思われているが、実際には、辛さはそれほどではないが、山椒がふんだんに用いられているため痺れる。
 カン・プンさん、いいところのお嬢さんだったのに、家出してゲリラに入り兵士になったとは凄いな。しかも、死んだ夫が元シャン州軍の総帥を勤めた人物だというのも驚くなあ、なんて数奇な人生。
 中国からカチンへ行く際、高野さんたちをカチン人だと偽装したが、森さんが高品質のカメラを多数持っていたことで怪しまれ、何とかごまかそうとゲリラの人たちが子供の頃に日本に留学したカチン人で、これからカチン軍では撮影部隊を育成しようとしているなどなど、アドリブで大きな嘘をついて、結局疑いは晴れなかったが、何とか乗り切ったところは凄い緊張感があって面白かった。しかし、ジャングルに入る前に色々と予想外の出来事が次々に起こるなあ。
 カチン軍がヘロイン中毒者を処刑する映像を見せられたことについて良否を書かずに、「別世界に来た」という感想だけだったことを正直に書いているのはいいね。しかし、なぜカチン軍がそうした映像を外国人に見せるのかよくわからんな。
 カチン軍、暗黙の強制があり、各村からポーターを徴発して、次の村まで案内させているから、村についてから次の村へ行くまでの待ち時間がかなりでき、進行が遅くなる。そうした『村人に「自発的強制労働」をさせるがゆえに、村人の都合に左右されるという不思議な状態が生まれる』(P205)という状況はかなり不思議だなあ。
 ゲリラであるカチン軍でも、ここまで連れて行くのがこちらの仕事で、それ以降はあちらの仕事という融通の利かなさはあるのかと驚いた。まあ、よく考えたら、組織だし、それに規律が重要視される軍だから、そうした受け持ち範囲があることに不思議は無いけど、やっぱりはじめてその情報を聞いたら驚くよ。
 森さんが汚い水は沸かしても飲めないといったので、脱水を心配した高野さんが、『お茶やコーヒーに混ぜて「これは昼間汲んでおいたわき水だ」と騙してようやく飲ませたことが何度かあった。』(P223)それは確かにいい話だが、自分で『私たちの深い信頼関係を象徴するような美談であろう。』(P223)と信頼関係と思わず疑問符が付くような言葉まで加えて、茶化しちゃうのは流石だ(笑)。
 あと、ゾウはあんなに巨体なのに、靴やサンダルをはいた人間よりも、音を立てずに歩くというのはビックリ。
 あまりの暑さで、周囲の人の静止を聞かずに川で水浴びしたら意識が遠のいた。それを予期し、静止したのはカチン人は、日中水浴びをすると温度差で体がショックを受け危険と知っていたからだ。
 カチン人は元は精霊信仰だったが、現在はクリスチャンで、『カチンでいちばん影響力があるのが、戒律が比較的厳しいプロテスタントのパブディスト協会』(P258)。だが、まだナッ(精霊)信仰の残滓は見られるとのことで、少し安心。
 高野さんはカチン軍からナガ軍に受け渡されるが、そのナガ人についての情報をカチン人たちがろくに知らないというのは、なんという状況でナガまで行くのか、と呆れ半分感嘆半分だ。しかし、実際にナガまでいく時に、護送してくれたカチン軍はなまっていたようで、そこまで長らくジャングルの中にいた高野さんのほうが体力あったから、あるへばっている兵士の銃を代わりに持ってやったほどというのは面白い(まあ、銃を代わりに持つことは直ぐに止められたようだが)。そんな中で交わされた、「君はタフだな」と言われて、『「当たり前だ」と私は答えた。「オレはもう二ヶ月もこんなことばっかりしてるんだ。あんたら町の人間と一緒にするな」/革命的生活の男は苦笑いした』(P425)というやりとりは面白いなあ(笑)。
 しかしナガに行って、アヘンのご相伴に預かっていたって、中毒のようになってしまった(「アヘン王国潜入記」)のに大概こりないお方だ。
 実際にありえなさそうなことなのに、○○軍が植えていった植物などという伝承があるのは面白いなあ。しかも、軍が来たのが50年100年経たない近時のことだからなおさら。
 父親である大尉と息子サン・オウンさんの14年ぶりの再会が、高野さんを大尉が護送してくることで偶然にも実現したというシーンは凄い偶然だ!しかし、大尉、母親だといって写真を見せたが、それが再婚相手なのはどうよ(苦笑)。そして、サン・オウンさんが年100ドルで勉強が続けられるというので、高野さんがそのお金をだすことを決めたというのは、いい話。そして、文庫版のあとがきで、それをきちんと実行に移し、サン・オウンさんとの親交も続けているのがわかるのがいいね。大尉、実際は高野さんの付き添いでインド国境にいったわけでもなく、カチン軍の極秘任務のため、武器の仕入先を探しにパキスタン方面へ行っていたとはすごく驚いた。
 ナガでは政府から民衆までKとIMによって二分されているとはなんともでかい話だな。しかし、政府に武器や資金をもらって戦争する反政府集団ってなんじゃそら。しかし、KとIMが実効支配していて、税金とっているのも両団体のようだ。ナガでは、同じモンゴロイドだからという理由もあって、ブルース・リーが英雄的な扱いをされているというのは面白いな。
 しかし、最初Kグループに引き渡されたから、IMグループに気をつけていたのに、ひそかに引き渡されていくうちにIMグループの手にいつの間にか渡っていたというのは笑える。
 危うく逮捕されて、実刑を食らうところだったのか、と領事の反応を見て、国境を無断で通過したことの重大さが改めてわかって背筋が冷える思いがした。だが、奇跡的に強制送還ですんだようで本当によかった。