モダン都市東京 日本の一九二〇年代

内容(「BOOK」データベースより)
大正、昭和初期のモダン都市「東京」。同時代の文学作品を手がかりに、都市生活者が闊歩しはじめた近代都市の情景を、スリリングに描きだす。

 戦前の日本についての本を読みたいと思って読了。この本では文学などから1920年代の都市や芸術思想などについて書かれている。そして現代的都市が成立したことで、新たに発生した都市遊歩者、そして彼らが見た東京について。
 「1900年前後日本とヨーロッパは同時代的に共振しはじめてい」たため、20年代は欧米の都市表現などとは同時代的なものがある。しかし欧米では連続している20年代アヴァンギャルドと30年代のモダニズムが日本では断絶している。
 関東大震災東京市の死者58,104人のうち、本所区(現在の墨田区南部)の死者が48,393人とそんなにも死者が一所に集中していたとは知らなかった。
 しかし第一次大戦後、多くの日本人がベルリンを訪れたというのは知らなかった。その時代に金持ちの日本人が放蕩していたようなエピソードは読むこともあるが、極一部の資産家に限らず欧州ドイツ・ベルリンへ行っていたとは知らなかった。
 1920年頃までに欧米では現代都市空間が成立し、日本でも都市の人口集中やモータリゼーションなどの同時代的な状況があり、現代都市生活がはじまった。そして1920年代初頭の浅草はあらゆる階級、職業、年齢の人間がおり、また様々な娯楽もある、混沌とした魅力にあふれた場所で、川端康成谷崎潤一郎のような作家でも浅草にひきつけられ、両作家とも浅草を舞台にした小説を書いている(双方未完に終わった)が、浅草を描くとなると都市論に関わらざるをえなかった。
 20年代前半の都市小説は日比谷から始まり、20年代後半の都市小説は銀座から始まる。日比谷、かつては警視庁や内務省など官庁があった場所だが、震災で焼け落ちたため、震災後に官庁を桜田門のあたりに移転したことで、霞ヶ関の官庁街が形成された。
 林芙美子の「放浪記」名前だけ聞いたことがあったが、女性の視点から見た20年代の東京が描かれていると知り、俄然読みたくなってきた!
 20年代の都市小説の時代から、30年代には村などを舞台にするなどして、小説のテーマから都市が消えてくる。そのため、その都市を舞台とした20年代の小説は忘れられ、その前後だけで連続しているとあるが、現在はどうなんだろうなあ。初出は30年前の本だし、古い小説はさっぱり読まないから、まあ、あとがきや解説によるとこの本を嚆矢として、20年代の東京についての本が多く出ているようだから、文学の世界は知らないが、20年代東京については再評価されているのかな。