マイナス50℃の世界

マイナス50℃の世界 (角川ソフィア文庫)

マイナス50℃の世界 (角川ソフィア文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
トイレには屋根がなく、窓は三重窓。冬には、気温が-50℃まで下がるので、釣った魚は10秒でコチコチに凍ってしまう―。世界でもっとも寒い土地であるシベリア。ロシア語通訳者として、真冬の横断取材に同行した著者は、鋭い観察眼とユニークな視点で様々なオドロキを発見していく。取材に参加した山本皓一と椎名誠による写真と解説もたっぷり収められた、親子で楽しめるレポート。米原万里の幻の処女作、待望の文庫化。

 米原さんの本を読むのは、めぼしいものは大体読み終わっているということもあり、久々だな。まあ、夏の角川の「発見!角川文庫」の本の中に入っているこの本についても見過ごしていたのだから、めぼしいものは大体というのも、我ながらあまり信用できない自己申告だなと思うけど(笑)。
 写真やイラストが多く載っているのは、12月の「平均」(!)気温がマイナス五〇度(魚市場の魚用冷凍庫はマイナス四八度!)になる中での生活というちょっと想像しづらいものをよりリアルに感じることができ、またその地特有の事情や事物がどういうものかを見て理解できるのはいいね。しかしそんな環境なのに首都のヤクーツクは、現在25万人も住んでいるというのは驚くなあ。
 冒頭の冬にはマイナス50℃の世界になるヤクート自治共和国(現サハ共和国)から春に届いた手紙には「こちらはもうすっかり暖かくなりました。外の気温はマイナス二一度。暑いほどです」と書いてあったが、その手紙をもらい米原さんは「東京は春だというのにまだはだ寒く、きょうの気温はプラス二一度です」と返事を書いたというのは、ウィットが効いている返答でいいねえ(笑)。
 人間や動物の息そして煮炊きの湯気、車の排ガスが空中で凍ってしまうため首都のヤクーツクでは冬中、霧が晴れないというのは驚き。そして車の排ガスが凍るため、前の車の排ガスで視界が利かなくなり、一メートル先も見えなくなることがあるというのは危険だなあ。またマイナス五〇度の世界では、あまりに寒いので摩擦熱で氷が解けないから、冬にはチェーンもスパイクタイヤもいらず、普通のタイヤで走行できるというのも驚く。
 しかし真冬にはマイナス五〇度が当たり前で、気温がマイナスにならない日が年間一〇〇日を切るような場所でも短い夏には気温は上がり、最高気温三八度を記憶したこともあるというのは驚愕。ただ、夏でも夜間は冷え込み、夜間と日中の寒暖差が激しいらしいけど。
 ビニール、プラスチック、合成樹脂でできた人工皮革製のものは破れ、崩れ、ちぎれてしまう。そのためこの地域では毛皮は日常に欠かせない必需品。
 それから、飛行機から出るのに、飛行機のドアが凍結しているため、外からガスバーナーで氷を解かさなければ出られないというのはそんなことが起こりうると考えたこともなかったので驚き。