怪獣記

怪獣記 (講談社文庫)

怪獣記 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

トルコ東部のワン湖に棲むといわれる謎の巨大生物ジャナワール。果たしてそれは本物かフェイクか。現場に飛んだ著者はクソ真面目な取材でその真実に切り込んでいく。イスラム復興主義やクルド問題をかきわけた末、目の前に謎の驚くべき物体が現れた!興奮と笑いが渦巻く100%ガチンコ・ノンフィクション。


 高野さんのUMAモノの旅行記読むのはムベンベ以来だから結構久々だ。いまいちUMAには関心がないので、高野さんの本はここ1年で結構読んでいるのだが、UMAを追うというような本は読むのが先送りになってしまっているのよね、とさっき気づいた。個人的には文庫版でタイトルから読む気をそそられるような本はあらかた読み終えてしまったかなあ。次に高野さんの本を読むのは「謎の独立国家ソマリランド」など面白そうだけどまだ文庫落ちしていない本が文庫になるまでしばらく待ちかなと思っているのでだいぶ後になりそう。まあ、待ちきれずに図書館で読む可能性もなきにしもあらずだが。
 今回はトルコのUMAジャナワールを探しに出かけるのだが、最初に見たそのジャナワールが移っている映像がフェイクなようだとわかったようだし、高野さん本人も最初に見たときからフェイクだと思っていたようなのは初っ端からちょっと肩透かし感がある。しかし、そこからどうトルコへ行くことに繋がるのかと思っていたが、その映像を取った青年ウナル・コザックが著作を出していて、その本が国会図書館付属の主にアジアの学術書が収められている図書館である東洋文庫に所蔵されているということがわかってから、一気に興味が湧いてきた。高野さんも感心しているが、慶応の大学院生である末澤さんもよくそんなところでUMA関係の人を探そうと思ったなあ。そしてその本にジャナワール目撃者48人分の顔写真と電話番号、住所などの個人情報が全部出ているということには色々な意味で凄く驚かされる、なんだそれ!しかも後に現地の人にその本を見せたら、そうした個人情報が載っていることに非常に驚いていたのだから、トルコがそうした情報にルーズというわけではなく、トルコでも非常に珍しいというかありえない本のようだ。そうした本があることを知ったことで、高野さんのジャナワール探索への情熱がはじめてわきあがってきたようだ。しかし末澤さんはトルコ語で書籍をすらすら読めるところまで達していないのに、その本の翻訳(1月で180ページ)やトルコに取材に行く2週間高野さんの通訳をするなどかなりこき使われているな(笑)。
 「西南シルクロードは密林へと消える」で高野さんと同行したカメラマンの森さんもこの旅に同行、といっても最初はその予定ではなく有給とってから出発4日前に高野さんに一緒にトルコへ行っていいかと聞きに来て同行することになったが、西南シルクロードで嫌にならずに今回こうして自主的に着いてきているのだから、彼もなかなかにタフだよなあ。
 コザックと共にトルコにまで来るきっかけとなった著作を書いたヌトゥク教授にトルコで最初に会うが、目撃証言などは捏造でなくきっちり採集していたようであるが、どうもビデオについてはほぼ黒であることが確実に。そしてそこでジャナワール騒動が、クルド人問題から目をそらさせようとするプロパガンダという説についても聞かされるなど、なんだか別のベクトルできな臭くなってきたなあ。また、ジャナワールがいるとされるワン湖周辺の地域は99%がクルド人という地域であるとのこと。
 そして後の取材でその記事を出した新聞に、オフィスに怪獣の玩具を作ったのだけど代金を払ってくれないという抗議の電話が来たようで、それでコザックは解雇されたようだから、コザックの映像は完全に黒だったようだ。しかし何とも間の抜けた話。
 トゥランさんという人間としてかなりの信用性が置ける人が真に迫った体験談を語ってくれたおかげで、やる気がいまいち欠けていたトルコ人スタッフがジャナワールに熱を上げはじめたというのは面白かった。そして彼らがジャナワールについて調べ始めたら、エヴリヤ・チェレビというトルコの17世紀の有名な旅行記作家のイスラム文学史上屈指の名所といわれる「旅行記」という本にワン湖の竜についての話が書かれていたことを発見したというのは、現在ではワン湖の周辺の地帯にそうした伝承がなくなっているということも含めて面白いな。
 しかし実際にワン湖で黒くて浮き沈みをしている、浮かび上がるときにはとトゲのようなものが見えるという謎の物体を発見して映像に捉えたが、魚に詳しい森さんも魚の動きではないというし、今まで聞いた目撃証言の矛盾しているような曖昧さもわかってしまうような現象を目の当たりにして、高野さんも困惑しているようだが、読んでいるこっちも困惑。そして、取材していた面子の中でもジャノワールかどうかについて、見なければ良かったなんて感想が一部では出るほど意見が割れて、そんな空気の中高野さんが俺たちはプロフェッショナルじゃないか、と言って各人にプロの〜といっていたが、話し始めたとき末澤について考えておらず、結局勢いで「……そして、スエザワはプロの……スチューデントだ!」なんていったという一場面には思わずくすくすと笑いがもれてしまう。
 その映像を大学に行っても、先生ごとにてんでんばらばらな見解な上あまり真剣でないのでトルコ人スタッフが憤慨して、これはきっとジャノワールだと前日の仲違いから一転して結託した。そして、実際そのあたりまで小さな幼児用のボートに乗って高野さんは湖に繰り出したが、映像はカメとは違うことは明白ではあるが、ジャノワールの証言の一部にはカメ説で説明できそうなもあったので、ついでにその湖の近くに居たカメをボートに一緒に乗せて、湖の中で放してどう見えるかを調べようとした。しかしボートに乗せたカメを湖に放り込むと、そのまま沈没していった、どうやらリクガメだったらしいとそこで気づいたのには爆笑した。まあ、湖の近くに居るのがリクガメだったので『このカメの尊い犠牲の結果、「ジャノワール=カメ誤認説」はきれいに消えた』(P261)ようだ。
 あとがきで、例の映像に捉えた物体については「泥をかぶったガス」説はなかなか説得力がある説と書いてあるが、その説でも高野さんは一部については納得のいかない点があるようで、なかなか正体を確信できない謎な現象/物体のようだ。