昭和三十年代の匂い

内容(「BOOK」データベースより)

昭和三十年代は、子どもたちにとって毎日がワンダーランドだった?大イベントだったテレビ購入、誕生日は不二家のお子様ランチ、土管のある空地が遊び場、くみとり便所の強烈な匂い…万博、アトム、レモン石鹸、トロリーバス。少年時代を大阪で過ごした著者による懐かしいだけでは語りきれない昭和の本当の生活と思い出たち。文庫化に際し新章の書下ろしと岡田斗司夫氏との巻末対談を収録。

 個人的には明治〜戦前昭和あたりの時代の生活なら感心があるけど、このあたりの普通の生活には正直興味は薄いのだけど、著者を凄く読みやすい歴史の本を書く岡崎久彦さんだと勘違いして、この人なら面白そうだと思って購入、したのはいいが人違いというね(苦笑)。それで失敗したかなと思ったけど、「序」で『三丁目の夕日』が美化されたものであることにも触れているし、この本はそうではないと書いてあるので、それならまあ大丈夫そうかなと思ったが、子ども時代に実際に体験したものを主に書いてあるから、どうも子供の娯楽といった方面に偏っている。なのでこの時代の本を読むなら、もうちょっとその時代について全体的に扱ったものを読んだほうがよかったかな。まあ個人的には読むまで著者を勘違いしていたから、そのようなものだと勘違いしていたわけだ。
 漫画やアニメ、テレビや音楽について言及して、それらについてあるいはそれらと関連付けて色々と語っていることが多いが、それらはいまいち楽しめなかったな。個人的には著者自身が実際体験したエピソードとかをもっと多く書いてくれたほうがよかったかな。少年マンガ雑誌の創生期には、戦記漫画や第二次大戦時の軍艦、航空機などを図解したものが多く、そうしたものが一種のブームだったというのはちょっと面白い。
 岡崎さんが子供の頃は誕生日などに不二家レストランで食事することが最高に嬉しい出来事で「もう昭和三十年代の子どもの舌にとって、ほとんど完璧だ。」なんて語られているが、こうした本当に好きなだったものについて手放しの賞賛が書いてあるのを読むのは好きだわ。
 電気冷蔵庫の輸入がされたのは戦前の1928年で、国産品も1930年には市販されているが戦争突入で一旦生産が中断され、戦後再び市販されはじめたのは1951年ごろというそのブランクの長さにはその便利さを知っているだけに驚いてしまう。しかし電気冷蔵庫の市販が再開されても、氷冷蔵庫も30年代でも普通に売られていたし使用されていたようだ。個人的には冷蔵庫であることと電化製品であることは不可分なように思えるから、氷冷蔵庫というのは氷を入れるための箱で、家具の一種だから冷蔵庫という語がつくのは漢字的には全く間違ってはいないけど、なんとなく違和感があるな。
 著者が子どもだった当時はのら犬もいたし、飼い犬でも放し飼いをしているところが多かったなんてのを見ると、犬公方徳川綱吉が生類憐みの令を出した当時の江戸の町では犬が放し飼いされていたことを知ってとても驚いたが、そうした状況がその後も続き、昭和30年代くらいまでは犬を飼うといっても放し飼いをしているところがかなり多かったというのは意外。
 そして巻末の対談で、ガラスのコップで出されるよりもプラスチックのコップのほうがなんだかありがたみがあったという感覚は今では想像がつかないな。