アフリカ・レポート

アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書)

アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書)

内容(「BOOK」データベースより)

豊かなジンバブエの農業を一〇年で壊滅させ、アパルトへイトを克服した南ア共和国を犯罪の多発に悩む国にしたのは誰か。中国の進出、逆に国を脱出するアフリカ人の増加などの新しい動きを追い、同時に、腐敗した権力には頼らず自立の道を求めて健闘する人々の姿も伝える。三〇年近いアフリカ取材経験に基づく、人間をみつめた報告。



 この本はとても読みやすいな、本を読むペースがだいぶ鈍っていた期間に読んだのだが、あっという間に読み終えることができた。アフリカについては「ルポ 資源大陸アフリカ」と、経済成長を続けるボツワナの現代史を描いた「やる夫はアフリカで奇跡を起こすようです」を読んだくらいの知識しかなかったが、この本は新書で現在のアフリカの大きな問題(アフリカの多くの国では国民という意識が希薄で、政府高官が国民の利益ではなく「部族」の利益で動いていることや中国人のアフリカ進出)が幾つか触れられているくらいだから、この本で触れられている現在アフリカで問題となっていることについては聞き覚えのあるものが多く、それをそこそこの分量まとめて読めるので現代アフリカ入門にはちょうどよい塩梅の本だ。
 ジンバブエ、スーパーインフレが始まる前から相当ひどいインフレが起こっていたが、原価を考えず価格を半減にせよと命令し、守らないものを逮捕したから、物が店頭に並ばずに闇で流通するようになってからは一層酷くなり天文学的な数字に。ジンバブエの総人口は1300万人だが、南アフリカに不法入国しているジンバブエ人は300万人というのは目を疑うような数字だ。
 アフリカは60〜70年代まで農業輸出国が多かったが、現在アフリカは食糧輸入に年間700億ドル費やす大陸に。先進国からのODAが年間200〜300億ドルと考えると、その莫大さがよくわかる。しかもODAは無償ではないのが多いのだから、どんどん借金が増えていっているのがわかる。
 ジンバブエは独立以来進めてきた白人から農地を政府が買い貧困層に定住させようという政策も政府が農地整備をしなかったため、全く不成功だった。そして独立から20年近くして、国の首魁たるムガベの様々な失政があり財政破綻の状態なのに、戦友であり無視できない勢力である元ゲリラへ年金支給を決めたことで、白人から金を払わず農場を接収するという強攻策にでた。そして白人から農場を接収して元ゲリラたちに配ったが、農業のノウハウもなく必要な投資もしなかったため、独立以来の政策と同様に、農地を荒廃させ生産が激減させただけだった。
 ある農場で働いていた農場労働者は住宅があり、給料のほかに家族3人が暮らすのに十分な現物支給があったのに、元ゲリラの新農場主に変わって現物支給がなくなり、インフレしているのに給料が代わらなかったので食事さえ満足に取れなくなった。そのようにこの白人農場主からの農場の強制接収は農場の生産性を著しく下げた上に、総雇用の4分の1を占めていた農場労働者の9割が失職するという災禍を生んだだけに終わった。
 南アフリカの警察官は危険で仕事が多いのに給料が安い。そんな中で警官をやっているスワルトが自分は車の運転が好きだから、時速200キロで走れるこの仕事を止めずにいるといっているが、その一言だけでこの人のことを好きになる。その言葉は恥ずかしがってそんな韜晦をしているという感じがするし、でも正義感とは別に楽しみもなければやっていられない職場だけど自分はこの仕事を一部でも好きでやっているんだと誤魔化して、それを自分への言い訳にして悪条件でも警察官を続けているように見え、そうなら自分を誤魔化してまで警察官である理由は犯罪者を許さないという強い職業倫理のひねくれた表出のようでもあるので趣深く、また言葉通りに車への凄い情熱を持っていてそのほかの条件なんて些事だといっているようでもある。彼の真意が何であれ非常に多くの感情が含まれた言葉のように感じて、南アフリカで警察の仕事をすることの色々な意味での困難さを感じさせられるような気がする言葉なのでなんか印象に残った。
 『住民にとっては、イギリスやフランスがつくったそんな「国家」に関心はなく、帰属意識など持っていない。彼らが伝統的に帰属感を持ち、よりどころとしてきたのは部族共同体』なので、『国家の財産をくすねて部族のために使うのは、むしろ褒められることでさえある。』(P74)
 南アフリカでは密漁でアワビが全く取れなくなるほどアワビが根こそぎ取られて、中国に輸出されていくので、麻薬犬ならぬアワビ犬が登場し、一年で何億円もの密漁あわびを摘発しているため、中国マフィアがそのアワビ犬ジェームズ殺害に100万円の懸賞金をかけて、南アフリカ警察はジェームズを守るためにシェパードの護衛犬が同行しジェームズの身辺を保護しているというのはシュールで冗談のような話だ。
 アフリカ人はおしゃれで中古衣料は好まないということだが、中古衣料を世界の貧しい人たちになんてことをやっているが、そういったものはいったいどこへ行くんでしょうね。そんな好まれないものを送ったところでゴミを輸出しているとしか思えず黒く乾いた笑いが思わず漏れ出る。
 スーダンで中国はODAで製油所を建設するのに現地人を雇わずに、自分たちだけでして、そこで手にしたお金も結局送金してしまうから、潤うのは現地の高官と中国人だけという惨状には目を覆いたくなる。しかし官だけでなく、民間からも多くの商人がアフリカの様々な国に出て行って商売をしているのを見ると本当にたくましいなと感じる。
 ある国が政権の無策によって無残な有様になると、その国からの「押し出し圧」が高まり他国への不法入国が増える。なるほど、そういわれればそうした不法入国者を増やさないためにも、根本的から変革するためにそういう国家が多いアフリカをどうにかしなきゃというのも理解できるのだが、その政府があまりにも腐敗して、あるいはそもそも単なる収奪者に堕している国家の政府に援助するのでは何にも解決しないことは小学生でもわかる。そうした「押し出し圧」が高い国はそんな国家だし、そうじゃない国家は現状で何とかやっていけている政権が比較的まとも、あるいは普通にまともな国だから、一番どうにかしなきゃらならない国をどうにかする手立てがないのがなんとも歯がゆいことだ。
 『第5章 「人々の自立」をめざして』では、民間の人が自力で生活を向上を目指す動きをして一定の成果が上がっているものを扱っているが、ジンバブエの現地の農業NGOで単純なばら撒き援助をせずに、受動的ではなく主体的に動くような意識改革を促すような援助方法をしているのはいいね。
 第6章では日本人が現地で会社を立ち上げて優良な会社に育て上げたケースなどを幾つか挙げているが、最終的に自分がいなくてもやれる段階まで持ってきていることや日本に利益を持ち帰らずその地に会社を根付かせ、自分が辞めた後その国の人たちが運営していけるだろうという風にしているのは、やっぱそういうちゃんとした会社がそうした国に1個2個でも増えるというのはその国の民衆にとってはとてもいいことだと思うから、そうした彼らの姿勢には好感が持てる。