新約 とある魔術の禁書目録 10

内容(「BOOK」データベースより)

魔神オティヌスを救うため、全世界を敵にまわした上条当麻。今まで頼もしい味方だった、指折りの権力者、超能力者、魔術師、それらすべてが“強敵”として上条に襲いかかってくる。この闘いは、上条の人生の中でも生存確率がもっとも低く、もっとも絶望的だと思われた。…つまり、上条が帰った世界は、まるで『あの地獄』と同じ光景だったのだ。だが彼は屈しない。今度は一人ではなかったから。オティヌスを全世界から救う方法。それは『魔神オティヌスの無力化』だった。魔神から人に戻るためには、デンマークの古城にある『ミミルの泉』から魔神の片目を取り出す必要がある。さあ、目的は決まった。上条は戦う。たった一人の少女の命と笑顔を守るために


 表紙のオティヌスは可愛くて、本当にヒロイン然としているなあ。前巻の最後の最後まで最強の敵役・悪役だったとはとても信じられないほど。
 冒頭で上条はもしオティヌスが殺されずに済み、その代わりに罪を償うために長年刑務所に囚われたとしても、自分は何度だって面会に行くし、牢獄から出るときには笑顔で迎えに行くといっているのを見て、彼女としか因縁がないわけじゃないのだから、そうしたことを他の人たちにも同じ程度の関わりをもとうとするならば人の背負える分量を超えているなあと、思ったがオティヌスは長い時間殺され続けたある意味ともに同じ時間を過ごしたことが一番多い人間だからこそ、そうした特別な献身を厭わないのかな。まあ、上条さんなら誰に対しても、そうした状況が現出したのならば、少なくとも思いでは、そうした思いを持ちそうでもあるけど(笑)。
 上条さんはとりあえず現実世界に戻ってオティヌスの姿を見て、彼女がこの世界に戻してくれた、自分の宿願を捨て去ってまでそうしてくれたことを理解して、彼女の味方をすることを決意したはいいけどノープランなのかい。地の文で上条が他人にここまで頼るのは珍しいみたいなことを書いているが、それを見てようやく気づいたけど、たしかに目的はあるのに、それをどう達成するか、できるかがここまで何も定まっていない上条さんは珍しいな。
 上条さん、身振り手振りで何とかなるといってどこかでコートが買えないのかをたずねて、それは伝わらなかったようだが、相手が「外でハメを外すならカー●ックスにしておきなさい」って言ったのは伝わったようだが、なんでそんな具体的な細かいところまで相手の意図がわかったのよ!(笑)
 そして前回のあとがきでの予告どおりにボスラッシュ、相手方はオティヌス排除という点では合意しているが、違う陣営とそう簡単には連携できないから(いっぺんに出たら、かえってそれぞれの能力を制限したり、同士討ちしそうだしね)一人あるいは一組ずつオティヌスと上条に襲い掛かってくるので、まさにボスラッシュという言葉はピタリと状況にあうな。そしてその緒戦が一方通行とは道のりの厳しさを痛感させられるなあ、しかしなぜ一方通行がわざわざこんな土地まで足を伸ばしてオティヌスを叩こうとしていたのかちょっとよくわからなかったが、自分が撃破されることで他の超能力者の動きを抑制するために来たのか。
 しかし今回は目的地への移動とその途上での敵の戦いというシンプルな構造だったから、このシリーズは最近誰がどういう意図をもってどういう行動しているのかがよくわからなくいような複雑さがままあったが、今回はそれがなかったので、読みやすかったわ。オティヌスと上条の移動シーンも比較的ほのぼのというか、そんなに切羽詰っている感じはあまりしないしね。
 グレムリンのメンバーであるマリアンが自分たちが託したものを裏切ったオティヌス相手に復讐に来ているが、自分たちが信じて歩んできた道の先を自分勝手に壊したことに憤り、それはオティヌスが補償しなければならないものだといって殺しに掛かってくることに、上条は怒り反論しているが、まあ、彼女の怒りはもっともなように見えるがね。まあ、それをいったら他の国々・教派が彼女を危ぶみ殺そうとしているのももっともでもあるけど、それでも彼女を擁護し、何とか彼女一人に背負わせない、彼女を殺さず償わせる結末にさせるために上条は尽力しているのだから、そうした彼ら彼女らの感情にノーとつきつけなければ、この逃避行ははじまらないけど。
 米大統領が上条の話を聞いてオティヌスを殺さずに済ませることに納得して、二人を捕まえていたが解放した。しかしその直後に学園都市の戦力(ファイブオーバー)が襲撃してきて、それが米軍の通信を傍受されていたことに米軍兵(ギリースーツの精鋭部隊の一人)が気づくと、さっきまでとらえられていたオティヌスが「貸し一だぞ」と言っていたのには笑った。そして、それに対する「元はと言えば全部お前たちが元凶だろテロリスト!!」という身も蓋もないつっこみも面白いわ。
 御坂はファイブオーバーを何体もハッキングで操っているところを見ると、彼女の最大の武器って電撃ではなく、電気を利用したハッキング能力ではないかと思えてしまうな。しかし御坂戦は、そうして御坂がハッキングして操ったファイブオーバーに右手をペタペタつけて、どんどんハッキングして上条よりも危険度が高いと認識された彼女に向かわせているというシーンとか、対戦時の会話なども一気にコミカルになったな。そして続くバードウェイ戦も結構ゆるーい感じ。
 終章直前でオティヌス消失かと思って、ヒロインになってから1巻程度だというのに軽い喪失感を抱くくらいのショックを受けたけど、小人や妖精のように小さくなっていたが彼女が登場し、実は死んでいなかったということがあかされてホッと一安心した。
 そして終章でまたえらい存在を出してきたなあ。こんなに上位者、というか神の領域に入っているようなキャラばかりだされても、どんだけ上条さんが動き、活躍するフィールドを広げるつもりだよとしか思えん。
 しかしオッレルスは彼女に2回人生をすべて奪われたというのに、彼女を害そうとする自分の盟友を身体を張って止めて、上条とオティヌスがしようとしている彼女が生きたまま能力が失われることを歓迎し、そして自分がオティヌスの『理解者』となれなかったことを寂しく思うなんて、能力的な意味とかではなくて、人格的な意味で聖人だなと感じる。