ノーゲーム・ノーライフ 1

内容(「BOOK」データベースより)

ニートでヒキコモリ、だがネット上では都市伝説とまで囁かれる天才ゲーマー兄妹・空と白。世界を「クソゲー」と呼ぶそんな二人は、ある日“神”を名乗る少年に異世界へと召喚される。そこは神により戦争が禁じられ、“全てがゲームで決まる”世界だった―そう、国境線さえも。他種族に追い詰められ、最後の都市を残すのみの『人類種』。空と白、二人のダメ人間兄妹は、異世界では『人類の救世主』となりえるのか?―“さぁ、ゲームをはじめよう”。

 最近読んでいたシリーズが次々に終わりかけているので久しぶりに新規開拓しようと思い、以前から少し気になっていたこの本に手をつけたが想像以上に面白かった。それは思いがけぬ幸運って感じで嬉しい。
 主人公である空、白兄妹の現実世界での生活が、あまりにも酷いので思わずドン引いてしまった。
 ゲームが上手すぎる人間にあるゲームへの紹介状がくるという噂について地の文でナレーションみたいに説明されているが、「  」(くうはく)の実績を聞くにこの2人より前にその紹介状が送られた人はいなさそうだ。だからその噂が流布しているのは、単にその噂が事実と合致したのは全くの瓢箪から駒か、それとも(暇な)神テトが意図してその噂を流したのかどっちだろ(笑)。後者の可能性は、神自身がその2人を自らの世界に招待しているくらに暇人だし、それに2人が自分に敵わなかったときのために第2、第3の彼らのような求道者がでてくることを願ってその噂を流したというのはありえそうだ。
 国家間の戦争のみならず、暴力行為全般が禁じられ、全ての争いごとはゲームの勝敗によって決められる世界で、盗賊すらゲームに勝つことで身包みを剥ぎ取ろうとしている。そういう世界観はカードゲームとか、玩具のアニメとかにありそうな設定でキャラがそれをおかしいと感じていないならば、そういう作品だと特に気にしないけど、そうした設定について主役たちが可笑しいと思える感性を持っているのでちょっと笑える。
 ステファニーとのゲームでの勝敗での願いとして「俺に惚れろ」なんて欲望、願望全開の最低な願いを妹の面前でここまで堂々というラノベ主人公も珍しい(笑)。ここまでド直球だとある意味すがすがしいわ。理由が分からずになんか惚れられているというよりもこうやって世界のシステムでそう認識を変えられたというほうが納得しやすい。しかし嫌だと思っていても恋愛感情が植えつけられるとはホラーだなあ。ただそれに自分も戸惑っているから全面的な洗脳という領域までは行っていないけど。まあ、それをやってしまうと悪役以外の何物でもなくなってしまうからなあ(笑)。そういう状態になって、こういう悪ノリみたいな感じで、妹とともに色々エロい行いするというのはわりと、わりと!好きだよ、ふざけているけどとってもエロくていいね。しかし妹である白がそうした行為をカメラで収めて、それに空がなぜカメラをといったら、逆に「おかず、いらないの」と問い返されて、「その気使いは有難く受け入れよう」と答えるとは、なんつう兄妹か(笑)。
 一つの都市しかない国であるのに、王族とはいえ個人の家に大浴場があるのは良くそんな余裕があるなと感心してしまう。そして漫画基準でどこまでのエロが許されるかを考えて、もし湯気がなかったら十八禁だなんてことを真剣に言っているのは笑える。
 妹の白は萌え絵的なテイストのイラストだけど、兄はシュッとした感じの細身で身長も高いキャラ。兄は等身が高いから犯罪臭が増し増し。ああ、ラブコメの主人公キャラのイラストも萌え絵的な等身が低い性差を感じさせないものだったのはそんな理由があったのかと今合点がいった(笑)。
 多数派ほど質が高い人間(?)がでやすいから当然多数派ほど有利というか、国の規模が小さくなればなるほど代表者による対戦だとしても、質的な差が生まれやすく、勝つことが難しくなるというのは、見かけは平等な分だけちょっとえげつないな。まあそれこそ主人公の空がいっているように「即ちそれは『完全な平等』がありえないから」(P125)ということか。
 無理やり空に惚れさせられたステラが、自分が彼に対する恋情を持たされていることで、意識せず彼に対してアピールするような行動をとっていることに自分で気づいてもだえているのが可愛くもあり、おかしくもあるが哀れでもある。
 しかしこの世界の文明の水準はわからないが、空と白の兄妹は異世界から来た人だから味覚などの基準も違うのでは?ということに誰にも言われず自分で気づくとは彼女は本質的に聡明なのだな。ゲーム(というか駆け引き?)は、その……あの、あまり上手くないみたいだけど。
 主人公のペテンを使っている対戦相手のクラミーの話の妙な悲壮感や使命感に誤魔化されないどころか、それに対してむしろ嬉々としてその対戦相手を挑発して、おちょくる性格の悪さは、彼なら生半可な奴のペテンには騙されないと安心できるからいいね(笑)。
 しかしエルフに力を借りてペテンをしていたクラミーが、それを自分で認めて、ドンだけ苦労したと公衆の面前で泣きながら言っているのに対して、周りのただげんなりしているだけというような、国の長の座をあやうく他国の間者といってもいい存在がなったかもしれないのに、そんな薄い反応とは随分と穏やかというか危機感が薄いのね。国民がそんなんだからこそ、こんな一つの都市しか持たない国まで縮小してしまったのかもしれないが。
 国王は二人ではいけないと最初に否定されていたので、兄妹は2つ勝ち越した時点で決着というルールで対戦したが、不眠不休で3日間戦い続けいまだに決着がつかないので、改めてなんて盟約に書いてあるかを尋ねて、その条文を聞くと、空は一人でなければいけないとは書いてないと突っ込んだ。そして結局二人で王になったということで、それ以前に二人で行ったゲームがこれ以上なく無駄な徒労だったということには思わず少し笑ってしまう。まあ、3日もやったから、他の人たちも、投げやりになっていたから二人でもいいよと決定したのだと思うけど。例えば、対戦前に行ったのならその意見ははねつけられたかと思うとそう無駄でもないかもしれないけど(笑)。
 しかしエピローグの直前に空と白は血が繋がっていないと明かされるが、それは、今までの白の言説が冗談にならなくなって、ちょっと危険だぞお(笑)。
 しかし白が空とステフの距離を離すためとはいえ、あなたは兄の「おかず」だと言って牽制するのは強烈だなあ。
 神に異世界に転移させられたときに持ってきたPCに何万冊もの専門書やwikiのデータが全部抽出されたものがあるというのは、「なろう」とかやる夫スレでありそうなテンプレ的なものなので思わず笑ってしまった。
 あとがきでブラジル、母国に一時帰国しているとあり、ん?と思ってwikiを見たら、榎宮さんはブラジル生まれのブラジル国籍とあって驚いた。
 最初は本文が少し多いから減らしてといわれて減らしたのに、後になって挿絵の10ページ分の計算していなかったから「あとがき」を多く書いてというのはひでえや(笑)。担当さん、なんつうポカだよ。