叫びと祈り

叫びと祈り (創元推理文庫)

叫びと祈り (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第5回ミステリーズ!新人賞受賞作を巻頭に据え、美しいラストまで突き進む驚異の連作推理。各種年末ミステリ・ランキングの上位を席捲、本屋大賞にノミネートされるなど破格の評価を受けた大型新人のデビュー作。



 外国が舞台の連作短編ミステリー。その土地の習俗がしっかりと真相に結びついていてその土地が舞台であるという意味がしっかりとあるのが面白かった。また、現代日本ではありえない理由付けが荒唐無稽なものとならず、リアルなものとして響いてくるのも面白い。単行本が出たときからかなり話題になっていたので文庫化したら絶対買おうと思っていたので、ようやく読めて嬉しかった。著者はアンソロジーである「放課後探偵団」に収録されている「スプリング・ハズ・カム」でもそうだったけど、最初にある一つの情報を隠しておいて誤認させて、最後にパッとその情報の覆いを取って真実の姿を見せることで驚かせるという趣向が得意なのかな。
 「砂漠を走る船の道」タイトルの砂漠を走る船ってラクダのことか、格好いいタイトルだと思っていたけど寓意とか詩的センスから付けられたタイトルなのかと思っていたがしっかりと中身にも強く関連しているのがいいね。
 砂漠の道中で殺人事件が起こり、斉木は自分を除いた大人の男2人しか残っておらずどちらかが殺人者だと推測できる状況になったときに、その2人が反目して今にも決闘になりそうなときに、適当な理屈をこねて自己という希望的観測を導く推理をその場をなだめるためにしたが、結局寝ているに犯人が他一方を殺してしまって自分自身を危険に晒した。どちらかが犯人だって分かっているのに、なあなあで誤魔化すような推理をしてはいけないというか推理でなくても切羽詰った状況でなあなあで済ますことの危険さを読んでいて感じた。
 最後の犯人の前から逃亡するシーンまで、割とシンプルで普通に面白いといった感じだったが、そのシーンで今まで誤認させられていた情報が明かされて驚いて、一気に評価をグンと上方修正した。そして最後の逃亡シーンもスリリングで映画みたいに絵になる場面で読んでいてとても面白かった。この最後の場面がなければそんな絶賛されていたのは何でなのかいまいちわからなかったが、その最後のシーンで絶賛の意味がよくわかった。
 「白い巨人セレッソの意味は知っていたから、サクラとなんか関係するのだろうなと思っていたがそう来たか。しかし消失の謎の真相は肩すかしで、笑いを誘われる深層だが、殺人とかの血なまぐさい話ばかりではなく、こうした笑話が1つくらいあったほうが個人的には好きだし面白いと思うよ。
 「凍れるルーシー」司祭の腐敗しないことが奇跡の証明というわけではなく、その人を「祝福するように、その現象が起こったこと、それが奇跡なのです」という台詞はいいな。死蝋化しただけと科学的解釈でわりきったり、あるいは逆に科学的解釈のすべて大して違うといったりせずに、科学的な意味を知って受け入れつつも宗教的な意味も見出すというその姿勢はほどよい按配で受け入れやすい。
 犯罪に気づいて捜査とかが一切なく一気に犯人の指摘まで行ったなあ。まあ、あまり間延びさせてもしょうがないとは思うがそのスピーディーさにちょっと驚いた。
 失われた理由の合理的な説明で素直に盗まれたじゃだれも救われないから、オカルトチックな短編だと思ったほうが救いがある感じがする。
 「叫び」この部族の習俗は怖すぎるな。まあ、そんな事件の最中に始めて彼らとであってしまった斉木だからこそ余計に不気味に思えるし、嫌な面だけが強調されたから、そんなマッチョ(?)な世界観を持っているみたいな解釈になってしまったのだろうとは思うが。
 「祈り」森野が誰なのかはわかったが、語り手が誰だったのかはそのことが明かされるまで全くわからなかったよ。