実録 ドイツで決闘した日本人

実録 ドイツで決闘した日本人 (集英社新書)

実録 ドイツで決闘した日本人 (集英社新書)

内容(「BOOK」データベースより)

驚くべきことにドイツの学生結社では今日でも、鋭い真剣を用いた決闘が一部の学生の間で普通に行われている。一九八〇年代初頭にドイツ留学した著者はふとしたことから学生結社に誘われ、そこで決闘を経験する。本書は、武士道にも通じるゲルマン騎士の「高貴なる野蛮さ」を具現する決闘文化に迫るドキュメントである。

 ドイツでは現在でも一部の学生の間で刃渡り90センチの真剣を用いたメンズーアという「決闘」が行われているというのは驚愕。しかも『この種の決闘は、驚くべきことに、今日でもドイツやオーストリアをはじめ、スイス、ベルギー、バルト三国の一部で日常的に行われている。』(P35-6)というようにドイツ一カ国でないということにも驚く。
 ただしメンズーアは復讐などを目的とした決闘ではなく、メンズーアは勝ち負けのない、ムッケンをせずに恐怖をコントロールして、その恐怖を克服する『騎士道精神に基づいた勇気と精神の強さを証明するためのひとつの通過儀礼・儀式』(P36-7)である。
 その決闘では、体や顔を動かすと「臆病で卑怯な態度をとること」(ムッケン)とみなされて失格となる。そして目を保護するために鉄製のめがね様のものをきつく締めて、上半身や腕にもしっかりと防具をつけた上で、片腕に剣を持ちその剣で相手の頭部に向けて切りつけ、打ち合う。その試合は、1ラウンド6、7秒で25か30ラウンド続けられ、少し血が出たり切られたくらいではドクターストップで決闘の続行が不可能とならない。
 また決闘での傷は麻酔なしで縫い付けられ、そして決闘の傷は名誉なものとされるため、わざと刀傷を鮮やかに残すように縫合する。決闘をしていないのに、あるいは決闘をしても刀傷をもらわなかったため、外科医を訪れてそうした刀傷(シュミス)の痕をつけてもらおうとする人間も居るほど。
 実際に著者が30年ほど前に、そうした決闘をする学生結社に入って体験した決闘やその結社での付き合いが書かれているが、決闘という特別な体験をした仲間だという意識があるから深い交流ができたようだから、決闘の体験だけでなく、仲間との交流も読んでいて非常に魅力的で面白い。
 現在ドイツでは約200万人の大学生が居るが、そのうち決闘を会員全員に義務付ける学生結社に入っている学生は約3万6000人、決闘をするかは個々の会員に任せる学生結社に入っている学生は約2万1000人、男子学生が半分として実際にそうした決闘をしているのは3.6%〜5.7%の間というのは、想像以上に多いな。
 ドイツ帝国法、ナチス第三帝国、占領軍の時代には決闘(メンズーア)は禁止されたが、第二次大戦後に西ドイツの最高裁判所は、メンズーアによって「身体的傷害が生じる可能性はあるが、それが、お互いの合意のもとで生じた傷害である限りは罪にはあたらない」とした。そのため、メンズーアは現在でも「処罰の対象とならない合法的なものとして、法的に認められている」とは驚き!!
 しかしいくら死ぬことはないとは言っても、当たり所が悪いと、傷口の向こうから歯が見えるというような事態が起こる可能性もあり、そうした現場を著者は学生結社に正式に入る前に見たのによく入ろうと思えたな、そうした現場を見たうえではいるのはとても度胸の居ることだとは思うが。
 決闘には、それぞれの学生結社が正会員になるために義務付けられた決闘(おおむね三回)、それ以外に個人的に決闘を申し込んで行われる決闘、それぞれの結社を代表する4〜5名同士による団体戦の3種類があり、ほとんどの人は義務の3回以上をあえてやろうとはしないようだ。
 そして決闘は同じ学生結社のメンバー同士では行われず、義務付けられた決闘については同じような技量の別団体の相手との試合を組んで行われる。