絶海ジェイル


絶海ジェイル Kの悲劇’94 (光文社文庫)

絶海ジェイル Kの悲劇’94 (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

先の大戦中、赤化華族の疑いをかけられ獄死したはずの祖父・清康が生きている。そう聞かされた天才ピアニストのイエ先輩こと八重洲家康は、後輩の渡辺夕佳とともに絶海の孤島・古尊島を訪れる。だがそこは厳重な一望監視獄舎を擁する監獄島であり、思いもよらない罠が二人を待ち受けていた。家康は50年前の祖父と同じ方法で、命をかけた脱出劇を再現できるのか!?


 イエユカシリーズ第2作。今回は主にイエ先輩の視点で進行していく。
 しっかしこの世界観ではまだ日本は華族制で、軍部もいるのに、第二次世界大戦で原爆を投下されるというクライマックスというべき出来事もあったようなのはわっかんないなあ。どういう具合に歴史が変われば、原爆後に華族制や軍部が温存されるのかがよくわからない。
 イエ先輩、初対面どころか顔も合わせてないのに波乃淵という人に辛らつだなと思ったが、後から考えてみるとその応対でもめちゃくちゃ甘かったね(笑)。
 狂気じみた波乃淵らが戦中の監獄を再現してイエ先輩たちを閉じ込めるという展開になるが、ミステリーとするには人数が少なすぎるからどうなるのかと少し心配していたから、こうすることで人数がちょうどよくするのか、なんか納得と同時に感心してしまった(笑)。
 しかしこの世界観の国の機関とかがよくわからないから、イエ先輩の監禁は、国の一機関の計画的犯行なのかとも思ってしまったが、狂気をこじらした私人である波乃淵たちがやらかした出来事だと知り、余分にスケールが広がらなくて良かった。
 共に監禁されたことで出会った亀井伯爵の令息を散々かばっていたように、イエ先輩もそうした優しく人間的な一面もあるのね。今までもう少しクールというか冷淡な印象があったわ。
 「ゲーム」みたいにかつて祖父が行った監獄からの脱出が成功すれば、他のことも全て解決するというシンプルなルールなので、脱出方法がわかっても更に犯人たちと退治しなければならないとかそういうのでないのはホッと一安心。
 コーヒーへアレを投下する手段が突飛過ぎて、ちょっと脱力してしまう。他のミステリーならこうした解決はダミーで、もっと納得のいく本当の真相が出てきそうな手段だ。まあ解説にもあるように、そうした突飛さがあるからこそ、説明がわかりやすくなったり、トリックが説明されてもよくわからないほど難解なものになっているのだから有難いことでもあるのかもしれないけど。
 しかし当時はこの孤島の監獄では囚人に食事を作らせていたが、同じ食事を作ってその中から監守側が食事を選択することで、毒を入れるのを防止していたようだが、監守側には若干の特典としてちょっとしたおかずが追加されていたが、それも人数分置くけど、後で没収というのでは、その特典のおかずに毒入れれば毒は使えるのではと短絡的に考えてしまう。追加のおかずが何なのか作っている本人も知らないという書き方でもないから、ちょっと謎だ。
 当時を再現するために拷問なども実際にするとは本当に波乃淵は頭おかしいわ。そしてイエ先輩がそうした侮辱的なことをさせられていることシーンも描写されて、生ごみを食わせられているシーンは思わず目をそらしたくなる。亀井伯爵の令息を殺させないために、そんなことすらしているイエ先輩って、というか今まで他人に冷淡な人だという印象をなんとなく持っていたのが恥ずかしくなるほど、本当にいい人、優しい人だ。
 そしてイエ先輩にそんなことをさせていた、波乃淵の末路にはスッとする。