毒物雑学事典

毒物雑学事典―ヘビ毒から発ガン物質まで (ブルーバックス)

毒物雑学事典―ヘビ毒から発ガン物質まで (ブルーバックス)

内容紹介

毒は恐ろしいとおびえる前に!●どんな毒があり、それはなぜ健康や生命を害するのか、あなたは知っていますか?●使い方1つで、毒は素晴らしい妙薬ともなるのです。●麻薬や覚せい剤の基礎知識をどうぞ。●“発ガン物質”のしくみを知りたくありませんか?●毒を知ることは、“安全性”についての考えを一層深めるでしょう。

 見開き2Pでひとつの項目について説明してあるので非常に読みやすい。ただ、生物学(似限らず理系全般)に弱いので、毒が体内のどのような期間に影響して、その毒性を発揮するのかについての説明を聞いてもかなり右から左へ抜けていっているけど(苦笑)。また、毒は薬、薬は毒ということで、薬についての説明もかなりあって、それらの薬についての話も面白かった。
 多くの毒は、人間の神経に作用して、それで何らかの機能に異常を発生(暴走または停止)させることで死に至らしめる、生命を自壊させるものだというのが、この本で多くの毒についてを読んでいて(今更ながら)気づいたところ。
 インディオが使っていた矢毒であるクラーレが、手術のときに筋肉を麻痺させてけいれんを除く特効薬になったというのは驚き。天然のクラーレは高価なため、安価な合成品(サクシニルコリン)が1950年頃に開発がされ、現在でもその合成品は使用されているというのは少し面白い。
 ソクラテスが飲んだ毒杯は、毒ニンジンの毒で、毒ニンジンを服用すると、手足の末端から体の中心に向かって麻痺が進み、意識が保たれたまま呼吸できなくなり30〜60分後に死亡するというのは、ちょっと怖いが、そんな特殊な利き方をする毒があり、実際に古代から使われてきたというのは興味深い。そして古代ギリシアでは毒ニンジンの毒は、死後の世界での永遠の不死に通じる扉を開くものと信じられていた。
 KGBによる亡命作家への毒殺でコウモリガサで大腿部を一突きして、毒(リシン)が封入されている小さな金属球を体内に入れて、体温でロウの封を溶かして体内に毒物を入れるというのは、なかなかにトリッキーな手法だ。
 ヒトヨタケやホテイシメジという茸には、嫌酒薬のように、アルコールから生じる毒物(アセトアルデヒド)を分解できなくさせる効果があるため、酒を飲むと嘔吐、顔面紅潮などの不快症状が表れる。嫌酒薬とか、そういったものの存在自体初耳(じゃないかもしれないけど、記憶が定かでない)だったのでそこにちょっと驚いた。
 アスピリン、胃を荒らす心配はあるものの『解熱効果のほかに、およそ痛みという痛みを解消するありがたい特効薬であった。』(P63)
 ステロイドはドーピングに使われ、副作用が強いというイメージが強い。しかしステロイドは炎症やアレルギー、膠原病の特効薬で、リューマチ性関節炎で歩行不能になっていた患者がその薬を飲んだとたんに硬くなった手足を動かし楽に動けるようになった(そのことを記録した医学映画が「今まで記録された映画のうちで、もっとも偉大な発見の一つを撮影した」ものとされている)というように非常にすばらしく画期的な薬として登場した。
 コレラはもともと南インドなどの風土病、一日下痢で10リットル以上体外に放出されるというのは改めてその量を見ると、やばさがわかる。
 ペニシリン、最近の細胞は植物細胞に用に細胞壁で覆われているが、ペニシリンはその細胞壁の合成を阻害する。そうすると、細胞壁が出来ないので浸透圧で水が最近の細胞壁に入って、やがて水ぶくれになって崩壊し死亡する。人間の細胞には細胞壁がないから、ペニシリンが影響せず、細胞が壊されないため人体に無害な薬。
 有名な赤チンは「濃度は薄く毒性は低い」(wikiによるとだけど)ようだが、水銀が含まれていたというのは知らなかった。
 性ホルモンがコレステロールを分解して作られたものだというのは、その両者を関連付けて考えたことはなかったが、両者は全く別のものという印象があったので、ちょっと意外だな。
 青酸カリ、空気中に放置されると炭酸ガスを吸って炭酸仮に変わり毒性が低下する。ラスプーチンが助かったのは、そのせいだという説は聞いたことあったが、青酸カリ、青酸ソーダは勇んで分解されなければ利かないので、彼の胃が無酸症のため利かなかったという説ははじめて知った。というか胃が無酸なんてことがあるのかとちょっと驚き。
 『食品添加物は、農薬のミニチュア版というべきもの』『農薬に準じた温和な毒が食品添加物として、厳しい制限の下に使われている』(P177)という具合に、その二つは基本的には同質のものだというのは知らなかった。