黒い仏

黒い仏 (講談社ノベルス)

黒い仏 (講談社ノベルス)

内容(「BOOK」データベースより)

九世紀の天台僧・円載にまつわる唐の秘宝探しと、一つの指紋も残されていない部屋で発見された身元不明死体。無関係に見える二つの事柄の接点とは?日本シリーズに沸く福岡、その裏で跋扈する二つの力。複雑怪奇な事件の解を、名探偵・石動戯作は、導き出せるのか?賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作。


 昨年この本の著者が逝去したと知ったときは、好きな作家さんが亡くなるなんてことははじめてだったものでかなりショックを受けた。そして何かすごく嫌なことがあったら自衛とか逃避のために記憶を忘れるというのは、漫画とかではあるけどそんなことがあるのかと思っていたけど、かなりショックを受けたのに一回忘れて、もう一度その死亡の情報を知りショックを受けつつ全快もショックを受けたことを思い出すという体験(自分でもあんなにショックを受けたのに一時忘れていたということに驚いてしまった)をして、そういうことって本当にあるのだなと実感した。
 クトゥルフTRPG動画にはまって、そうした知識を幾分かでも持っていなければちんぷんかんぷんだったわ(苦笑)。
 アントニオは名前とそれまでの彼の話から、中国系の中南米国籍の人だと勝手に思っていたが、中国人だったのか。石動は彼のことを、徐彬(シュイ・ピン)→日本語読みでジョ・ビン→アントニオ・カルロス・ジョビン(作曲家)という連想でアントニオと呼んでいるようだ。しかし中国人だということは、20則だかなんだかのパロディみたなことで、霊のような超自然的な現象が見えるという設定だったのか。
 『恐怖を顔に表して死んでいた、なんていうのはテレビの刑事ドラマの世界の話ですよ。死に顔がどうなるかは、たんに死後の肉体の条件に左右されるだけです。楽しい心中でも死に顔は苦悶にゆがむかもしれないし、残酷な殺人でもおだやかな顔で死んでいるかもしれない。』(P33)条件によって変わり、死んだときの心境を表しているわけではないというのは知らなかったのでちょっと驚いた。
 普通に化け物が登場してくるなんてファンタジーだな。「キマイラの新しい城」で幽霊が出てきたのを知っているので(発刊順的にはこちらのほうがずっと先なのだが、「キマイラの新しい城」を先に読んだ)、そんなことに驚くのは今更かもしれないけど。
 アントニオには、幼い頃特殊な訓練を受け、中国で法力を使い色々やっていたようだが、後に中国情報部に負われる立場になって逃げてきたというハードな、というか彼って完全に異能バトルの世界の人間だよね(笑)。
 探偵なのに全く本筋といっていいファンタジーの世界には気づかずにいる、石動産。まあ、アントニオが彼がそっちの世界に関わることの内容守っているのだが。
 しかし探偵役だけど、相変わらず、石動の推理はピッタリとは当たらんなあ(笑)。クトゥルフ神話の住人である犯人のほうが、証言や証拠をでっち上げるという斜め上の結論に至るとは驚きだけど。クトゥルフ神話の世界観に取り込まれた展開と、最後のラストバトルへと赴く僧侶たちを見て、肝心のミステリーのオチを感想を書いている現在まですっかり忘れていた。
 クトゥルフはそんなに詳しいわけではないので(奴らの名前がどういう名前かについても良くわからないくらいには)、各章ごとに抜粋されている経文(漢文)がラヴクラフトの引用をもとにした創作で、クトゥルフ的の内容を示しているとはぜんぜんわからなかった。2章8節に『黄衣の王』という単語が出てきたときに気づくべきだったが、たまたまシンクロしただけかと思ってスルーしてしまっていたわ、くそう。
 まさかのクトゥルフ神話オチ、そして力を持つアントニオも華麗にスルーして、比叡山連中にとっては(おそらく)当初の予定通りに決戦に挑むこととなる。石動とアントニオが東京への帰途に着いてすぐに、裏面では比叡山の僧侶たちが人類の存亡をかけた異能バトルが繰り広げられているという終わり。しかし神話生物と対神話生物の修行を積んだ僧侶たちとの戦いが行われたということだ。まあ、この後にシリーズ続いているのだから、おそらく比叡山連中が勝利したということかな(笑)。