なんでもわかるキリスト教大事典

なんでもわかるキリスト教大事典 (朝日文庫)

なんでもわかるキリスト教大事典 (朝日文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

聖書理解も礼拝スタイルも、教派が変わればここまで違う!自他共に認める「キリスト教会オタク」の著者が、カトリックプロテスタントから「異端」までを徹底分析。キリスト教文化圏の理解が深まること間違いなしの必読書。驚きの情報量でイラスト・索引・用語集も充実。

 とりあえず通して読んだが、書名に「事典」とあるように、何か本を読んでいて少しわからないところがあったら調べるという使い方をする、文字通り事典として利用することで真価を発揮する本だろう。キリスト教の諸教派、諸教団がどんな特徴や違いがあるかについてさまざまな教派、教団のことが書かれているのは、他にみたことないので、大変ありがたい。ただ、私のようなキリスト教の教派などについての知識がほとんどない人間にとっては、情報が右から左へ抜けて言ってしまうので、通しで読むにはちょっと辛い。
 この価格帯でここまで詳しく、キリスト教について網羅的に書かれている本はないだろうし、難解なところもないので、キリスト教の内部の違いなどについても知ってみたいという人にとっては最適な本だと思うし、そうしたことが書かれているのは少なくとも手に取りやすい価格帯では、amazonでちょろちょろと見た程度だが、類書が見当たらなかったので、貴重な本だと思う。また、キリスト教についていくらか知っている人にも発見や驚きがある本だと思う。
 また、イラストも多数あって、祭具や服がどういうものなのかが見てわかるようになっているのは、今まで小説に出てきても字面で勝手に想像していたが、どのようなものなのかが実際に見ることができていいね!しかしあとがきによると、著者自身がイラスト書いているようなのは凄いな、かなり上手いがこれでイラストレーターをやっているというわけでもないのか。
 そして付録として主要教派の対照表がまとめられていて(それが20ページ以上もあり)、それぞれの教派の違いを一覧として見開きで見ることが出来るのはいいね!一々本文を見て、それぞれの教派の違いを見るのは中々骨が折れそうだったから、こうして簡単に違いを見ることが出来るのは有難い。
 冒頭のカラーのページで、季節や時期によって聖職者の祭服などの色が変わるのは知らなかった。そして聖職者は白い服というイメージが強いから、白よりも緑の時期が多いというのはちょっと意外。
 すべてのプロテスタントに牧師という役職があるわけではないというのは、へえ。ローマ・カトリックが異端審問官を設置したのは13世紀と案外遅め。東西の協会(ローマ・カトリック正教会)は5世紀ごろから溝が徐々に深まっていたようだが、相互破門して協会が明確に分裂したのは1054年というのは、ローマ帝国が東西に分かれた時期から、そう時を置かずして分裂したのかと思っていたから少し意外だ。
 正教会式のイエス・キリストの言い方はイイスス・ハストリス。
 帝政ロシアでは、ピョートル大帝時代である1708年から、痛悔(告解)で信徒の反国家的言動を察知した司祭はそのことを関係に報告することが法令で義務付けられていたというのは驚き。
 ローマ・カトリック東方正教会も飲酒喫煙は罪悪視しないというのは、ワイン飲んでるし、作っているし、タバコはアメリカ産だから良く考えればそりゃそうだろうけど、ちょっとへえって思った。
 ローマ・カトリック教会では、非ローマ・カトリック信者との特別な許可が必要で、また結婚向こうの宣言はあっても離婚というシステムが「現在でも」ないとは知らなかった。
 聖公会(アングリカン協会)何かと思えば、英国国教会のことなのか、いやまあ、英国だけに留まらず、旧植民地やナイジェリアなどにイングランド協会を母体とするそれぞれの国の教会があって、それらを総称して聖公会と呼ぶようだ。英国国教会って英国の中だけのことかと思ったら、他の国にもあり、日本にもあるというのはちょっと驚いたな。
 カトリックでは貧しいものは神から祝福され、清貧は幸いだった。しかしカルヴァンの予定説では、神に選ばれたものは天職に励めば経済的繁栄を得ることが出来るとして、貧しいものは怠惰、あるいは神に見捨てられたしるしとみなされるようになった。『選民思想と結びついた予定説は、人間を人間としてみない差別を生む。地球上で最後まで公式にアパルトヘイト(人種隔離)政策を維持し続けた国といえば南アフリカだが、その主柱となったアフリカーナーはオランダおよびフランスのカルヴァン主義は移民の子孫たちだった。
』(P106)
 ペンテコステ派アメリカの小説とかでたまに出てくるアメリカのテレビを媒体にする伝道師はこの派閥の人たちか。しかしカトリックを除いた最大グループで、信者数が5億人とは想像以上にでかい(東方正教会2億人超、聖公会が8500万人、ルター派が7000万人)。体験主義的で土着宗教と結びつきやすい。
 その他にも多くの教派について説明がしてあり、いままで知らなくて、ここではじめて名前を聞いたような教派もあり、思ったよりもキリスト教の教派というのはたくさんあるのだということをこうしていくつもの教派についての説明されることではじめて気づいた。今までざっくりカトリックプロテスタント(ここが色々と千差万別なのね、いや他に入らないのが全部ここに入るから自然に千差万別になるといったほうがいいのか)、英国国教会正教会にわけてしか認識していなかったからちょっと驚いた。
 メノナイト系、『幼児洗礼を否定し、国家と協会の分離を主張したために社会秩序に対する脅威と見なされ、ローマ・カトリックプロテスタントルター派と改革派)双方から迫害された。』(P144)そうして『ヨーロッパ各地で迫害された彼らは、信仰の自由を求めて集団で移民を繰り返した。とくに、オランダからプロイセンへ、さらにロシアのウクライナ地方、そこからアメリカ、カナダへと移民して言ったメノナイトも多い。』(P145)ういった経緯から『小さな共同体での相互扶助を重んじ、固有の文化を守る閉鎖的傾向がある』。そして彼らは、アメリカでは19世紀後半、ロシアでは革命まで先祖伝来の言葉(ドイツ語)を使っていた。ドストエフスキーとかの時代のロシア文学とかで見る「ドイツ人」ってこのメノナイト系の人たちのことか!アナブパテスト(再洗礼)がキーワードで共同体重視だが、他人の振興に干渉せず、去るのも来るのも自由。
 現代のクエーカーは多種多様で『極端な場合、イエス・キリストへの信仰を表明しないものも会員と認めたり、クエーカリズムはキリスト教ではないと主張するグループもある』(P164-5)ので、全てのクエーカーがクリスチャンといえないというのは驚くな。そして相手によって値段を変えない「定価」を導入したのはクエーカーの商人がはじめて(17Cからクエーカーという教派ができたのだから、定価もそれ以降か)。
 統一教会モルモン教エホバの証人が三大異端とされているようだ。エホバの証人、キリストは神の子だが神でなく、キリストは天使長ミカエルと同一人物で、キリストは十字架でなく杭にかけられ殺されたとしているなど、確かにそれだけ見ても普通のキリスト教徒はかなり見解を異にしていることが伺える。モルモン教、紀元前600から紀元400年前にアメリカに生きた預言者たちや先住民の記録と復活後のイエスアメリカを訪れ復員を伝えたことが記されている『モルモン書』を初代教祖が「翻訳」したことで誕生した。そうした知られざる書を翻訳したという体の小説はいくつもあるが、実際に知られざる本を翻訳したと称して宗教を立てて、現在では1400万人と多くの信徒がいるというのは驚く。そしてアメリカのユタ州では人口の7割がモルモン教徒ということにもビックリ、モルモン教徒の人が多数派の地域があったのか。更に死後に到達できる3つの栄えの最上級に、永遠に家族と暮らし無数の子孫を経て、神(god)になれるというものがあるというでは、そりゃ異端とされますわ。
 英米では挙式費用の支払い義務も花嫁側(花嫁の父)にあるというのはちょっと意外だ。
 アメリカなど移民で構成される国ではどの教派に属するかが、自分のアイデンティティの表明に直結するようなケースがある(ただ同時に、アメリカでは階級が変わると車を変えるように教派を変えることもあるようだが)。アメリカで言えば長老派(スコットランド系、スコッチアイリッシュ)、改革派(オランダ系、ドイツ系)、ルター派(ドイツ系、スカナンジナビア系)、聖公会イングランド系)、正教会(スラブ系、ギリシア系)、カトリックアイルランド系、ラテン系、ヒスパニック系)と教派によって連想する人種があるというのはちょっと面白い。
 上半身を傾けず右足を引く動作は、日本で言うお辞儀に相当する。
 現在も修道院(の全てではないが)では私物とかほとんど持たないというのは、ちょっとした異世界だな。
 「予言」と「預言」漢字の意味的にはどちらも本来は同じというのは、へえ。だが、原語でも区別はないのかどうかがちと気になる。