十番斬り 剣客商売 12

十番斬り (新潮文庫―剣客商売)

十番斬り (新潮文庫―剣客商売)

内容紹介

無頼者一掃を最後の仕事と決めた不治の病の孤独な中年剣客。その助太刀に小兵衛の白刃が冴える表題作など全7編。シリーズ第十二弾。

 いまさらだけどこの小説には、いやこの小説に限らず時代小説にはなのかもしれないが、浪人がかなり出てくるのだが、実際に浪人はどのくらいいたのだろうか(そんなに大勢いたのだろうか)という割合どうでもいいことが気になってしまう(笑)。しかし剣豪小説だから当然といえば当然なのだが、毎度毎度死人が出るなあ。
 「白い猫」以前に剣の求道者である平山と真剣を用いた決闘の約束をしていて、此度決闘になったわけだが、その決闘に赴く最中に、その直前に猫を助けたときに懲らしめられた浪人とその仲間が秋山小兵衛を狙ってきて、小兵衛は彼らとたたかったことで決闘に遅刻してしまい、決闘の刻限を過ぎた後に平山は心臓病の発作で死亡してしまう。小兵衛が遅刻したことで、平山の死に場所、最後のハレの場を奪ってしまったことに平山の親しい弟子は激怒するが、小兵衛の血にまみれた姿を見てやむをえない事情があったことを察するが、それでも怒りが収まりきらずに涙する。平山の死亡と彼の涙を見て、小兵衛も遅刻したことへの後悔は増したようだ。
 「密通浪人」亡き妻の弟で、武士の家の出だが商人の家に婿入りした理兵衛がトラブルに巻き込まれそうな情報を小耳に挟んで、彼の妻の密通疑惑を調査するが、真相が明らかになってみると、自身も商人の嫁である女が、理兵衛の妻の名前を騙ったという顛末。
 「浮寝鳥」殺された老乞食を、死した当日に見かけた秋山大治郎が、御用聞き(与力・同心の私的な下部組織[弥七も御用聞き])の清蔵と共に、その老人を殺したものを探る。三冬の剣の腕を知らない清蔵が、曲者相手に大立ち回りを見せた三冬を見て呆然としているのが面白かった。そして田沼老中の娘と知り更に驚愕しているのも。
 「十番斬り」表題作。小兵衛が宗哲に会いに行くと、そこでかつて高名な剣客だった村松忠右衛門の息子で、本人も以前決闘で4人を討ち果たしたことが評判となった村松太九郎と出会った。村松は死期が近づいたが、村松が馬込村に救っていた無頼浪人たちを相手として、死ぬ直前に彼らを討ち果たし満足を得て逝く姿を、最後の輝きを小兵衛は看取ることとなる。
 「同門の酒」小兵衛がかつて同じ師を仰ぎ修行した面々と酒を酌み交わす集まりを毎年催していたが、そのうち師が死したときに高弟だった10人のうち最年少の矢村孫次郎が欠席して、妙に思った彼らが不審に思って調べてみると、人違いで野党に捕らえられていたので、それを救出する話。年甲斐もなく、同門の気安さから、救出した孫次郎に野党風情に捕まるとはと年下とはいえ大の大人相手に、口々に叱りつけているのが面白かった、小兵衛は流石になだめる側にまわったが。まあ、それが性質なのか、それとも全員がしかるのはアレかと思ったのか知らないけど(笑)。
 「逃げる人」秋山大治郎がひょんなことから親交を持った老人が、近々江戸を訪ねてくるとの便りをよこした知人の父を殺した仇だと知る。その老人に懲らしめられた渡り中間が、金で浪人を雇い老人を襲ってきたので大治郎が助太刀をしたが、その際思わず本姓を読んでしまったため、その老人は大治郎から身を隠す。それからほどなくして、知人がぽっくりと亡くなっていたことを手紙で知る。
 「罪ほろぼし」かつて永井源太郎の父が1500石取りの旗本であったのに辻斬りをしていたのを小兵衛が捕らえて、裁きを受けさせた。永井源太郎は現在、商家の金庫番をしている。その永井源太郎が何者かに襲われているのを小兵衛が助けて、現在の彼の職を知り、そして彼自身は非常に良い若者であることを知る。そのことで小兵衛は、何とはなしに悪いことをした気分になり、罪ほろぼしという意識もあり、彼を狙う盗賊の一味を弥七とともに検挙・討伐することに。