国際メディア情報戦

内容(「BOOK」データベースより)

現代の「戦場」を制するのはイメージの力。グローバルな世論を味方につけろ!中国・北朝鮮・イラン・アルカイダ…大国も小国もテロリストも続々参戦中!急拡大する戦いの現場でいま何が起きているのか?日本はいかに戦うのか?今世紀をサバイバルするための必読書!


 まえがき、日本は第二次世界大戦後に書類を焼いたせいでかえって罪が重くなったり、有罪になったケースが多かったというのはちょっと意外だ。現在の情報戦は、水面下でごく一部しか知らない情報を入手することではなく、重要な情報を外部に発信することでその情報を「武器」にしている。つまり『「情報戦」とは、情報を少しでも多くの人の目と耳に届け、そのことを揺り動かすこと。いわば「出す」情報戦なのだ。情報は、自分だけが知っていても意味はない。現代では、それをいかに他の人に伝えるかが勝負になっている。』(P5)
 「ドキュメント 戦争広告代理店」の著者の新作で、帯に待望の新刊というあおりがついていたから期待していたのだが、内容的に「ドキュメント 戦争広告代理店」と要点は同じで目新しいことは少な目だな。もちろん新書として、その内容がまとまっているし、それに「ドキュメント 戦争広告代理店」後に起こった世界のさまざまな出来事で、どのようにPR技術を使用して、自分たちに有利な事実をいかに世界に、国民に伝えたのかについてが書かれている。
 こういう風にRPという観点で世界の事件などを見ていると、改めて事実(情報)を印象的に伝えるというのが日本は下手だと感じるよ。たとえば、慰安婦の強制連行が虚構という事実を伝えるのに余計なことを付け加えて、かえってアメリカとかの反感を買っているのなんてみると頭を抱えたくなる。
 国際世論はメガメディアの報道や論説を通じて形作られ、国際機関や主要国の政策もその影響から逃れることはできないので、現実の世界がどうかではなく、その情報世界において何がどう描かれるかがより重要となり、その情報世界で何が描かれたかによって現実の世界を動かすという状況に現在なっている。
 PRのエキスパートはやらせや捏造という手段は用いない。
 PR会社は広告をするのではなく、広告以外の方法でメディアをいかに上手に利用して、主張したいメッセージを効果的に伝えるかというのが仕事。なぜなら広告だと広告主の意図が見えているのでそのメッセージが割り引かれて受け取られる。PR会社は、『広告スペースではなく、テレビなら通常の番組や報道、新聞なら記事の部分にクライアントの意思を反映させるのが仕事である。』(P29)しかしそうしたものは金で買えないので、底に影響を及ぼすためにはさまざまなテクニックや人脈が必要となる。しかし『それが成功して番組や報道にメッセージを「埋め込む」ことができれば、「広告だから」という情報を通さずに情報を消費者の心に送り込むことが出来るのだ。』(P29)そして情報戦とは『最終的には「自分たちの方が敵よりも倫理的に勝っている」ということをいかに説得するかという勝負である。(中略)誤解を恐れずに言えば、現代の国際政治のリアリティは、自らの倫理的優位性をメガメディアを通じて世界に広めた者が勝つという世界なのだ。/だからオバマ大統領も、アサド大統領も、かつてのボスニア政府も、ビンラディンも(中略)PRエキスパートたちも、メディアを通じて自分たちの正当性を主張してきたし、今もしているのだ。』(P246)
 現在のメディア情報戦での3つの基本的なテクニック「サウンドバイト」「バズワード」「サダマイズ」。
 「サウンドバイト」テレビで編集して数秒から十数秒の発言(「サウンドバイト」)を切り出すときに、視聴者に印象が残るように数秒から長くて十数秒に最重要事項をシンプルに伝える、サウンドバイトに適した話し方が出来るか。
 「バズワード」メディアを騒がす流行語のこと、短くて印象的な言葉。ボスニア紛争のときは「民族浄化」、これはもともとセルボ=クロアチア語の言葉の直訳だが、ホロコーストの語を使わずに、それを連想させるワードで相手の非道さを強調するのに非常に効果的だった。
 「サダマイズ」敵の「サダマイズ」(敵をサダム・フセインのように悪者とする)。製作や行動を批判するときに、国家や組織を批判するのではインパクトが弱いため、相手の『リーダーなり、黒幕なり、顔を持った具体的な人間を標的として選び出し、攻撃することで、人々の心を動かし、狙い通りの世論を形成することが出来る。』(P52)
 シリアで殺されたジャーナリストの山本さんが殺されたことに言及して、今まではジャーナリストが前線で取材して死亡しても、それはそのジャーナリストを故意に狙ったものではなかったが、今回の件ではジャーナリストを狙っているということで新たな局面・潮流なのかもというのは、そのニュースは一応知ってはいたが、それがそうした新しい意味を持った出来事だったというのはちょっと驚き。
 『アメリカの民主主義では、日本では否定的に「パフォーマンス」などと言われかねないテレビ向けのテクニックを磨くことはあたりまえだと考えられている。』(P92)というのは、へえ。だけど実際、本人の口でどういう政策なのかがわかりやすく伝え割るというのはいいことだよね。新聞、テレビでなんとなく傾向とかを知るよりも直接的だしね(少なくとも幾分かは)。
 ビンラディンは情報の価値をよく理解していて、情報を上手に利用していて、彼が志望したときにしたためていた手紙には、各テレビ局の特徴や一人ひとりの姿勢や個性まで分析していて、9・11の10周年の機会に自分のメッセージがイスラーム世界に限らず英語に翻訳されアメリカのメディアを使い全米で流すにはどうすればよいかについて幹部と検討を重ねていたことが記されていた。
 アルカイダの情報部門だったアッサハブ(そのトップが殺害されたことで、自称アッサハブの後裔は世界に出来ているものの、本家の統制は利いていない)は、自らのメッセージを既存のメディアを使って世界に発信するPR戦略、国際メディア情報戦のテクニックを持っていた。たとえば実際にあったこととして、特定の記者に狙いをつけて、何度かビンラディンのインタビューが入ったビデオテープを支局のポストに入れてある種の信頼関係を作ったうえで、使者を立てて今すぐ一緒に来ればビンラディンにインタビューさせると誘い、スクープを求める記者の本能からその誘いにのった高名な記者に、カリスマ性のあるビンラディンをインタビューさせることで記者側はスクープを得るし、ビンラディン側はそのことで大きく取り上げられ自分のメッセージを広く伝えられた。
 あるいはアッサハブは、有名な報道番組に、番組のフォーマットに伴った企画書を出し、その企画が実現するなら作戦を立案したアルカイダの幹部に独占インタビュー(それまでアルカイダは9・11への関与を正式には認めていなかった)させるということを言って、それに応じた。スクープを自ら提供することで、インタビューという形でアルカイダの主張を全米に流してアピールする、プロの情報屋の仕事をしていた。
 アメリカは一時広告でイスラーム世界にアメリカやブッシュに対する反感を抑えようとしたが、いくら広告をしても目に見える効果は上がらなかった。このことからもわかるように本当に世界の世論を変えるには広告ではなく、PRが必要。
 大統領オバマが国内外で好印象をもたれるように、ホワイトハウスにメディアのカメラマンが入ることはほとんど許可されなくなった一方で、専属のカメラマンが撮った格好いい写真を厳選して公表している。そしてアメリカはビンラディンを殺した直ぐあとに、それまでのイメージと異なるしょぼくれた老人のようなビンラディンの姿や、ポルノを所持していたことを公表して、彼が殉教者とされないように情報戦に打って出て、そのアメリカの狙いは成功した。
 世論の巨大な潮流は少数のプロが作り出せたり自在に操れるものではなく、多くの場合自然に出来上がる。しかしPRの、情報戦のエキスパートは、急所をつくことでその流れを増幅、減速させることが出来る。
 次世代のアルカイダ「インスパイア」、英語のイスラム原理主義者のネットでフリーで公開されている雑誌。それは洗練されたデザインを持ち、それがどこか別の国で訓練することを必要とせず(つまり目立たずに)、その国の内側で育った、ローンウルフやホームグロウンとも呼ばれる、個人の国内テロ犯を生み出している。
 しかしその雑誌の中には「君のママのキッチンで爆弾を作る方法」などという記事が載っているというのはその記事の題名を見るとちょっとギャグみたいだが、ボストンマラソンのテロ事件でその記事が参考にされたと疑われているようにギャグではすまない事態を現出させた。
 東京オリンピック招致のPRについてもほとんど一章使って説明されている。
 催眠ガス、空気より重いため上にはあまり広がらないので、トルコのデモ鎮圧のときに上階に達して難を逃れたというが、よくそんなことを知っていたな(笑)。閑話休題
 『権力者が、国内の政治状況と国際メディア情報戦における戦略をどう天秤にかけるかという状況は、世界各地で時々発生する。そしてその片方を「見切る」という選択も取られることがある。』(P222)まあ、常に国際的なことを優先にすると国家がずたずたになるだけというか、それは本当にその国の国民のための国家かということになるしね。
 現在の国際社会の価値観の主流には現在も第二次大戦だけは、軍事的に買ったほうが勝者というだけでなく、倫理的にも正しいほうが勝ったという見方がある。ということで、ナチスと日本は違っても、事実はともかく、国際的価値観としてはそれが「事実」のようにあつかわれているという不愉快であるが厳然たる事実がある。
 あとがきに書いてあるように、中国がもし民主化して、その大統領がPRをよく理解している人間ならば、日本は著しく不利な状況に立たされるというのは、考えていなかったがなるほど。その時には情報戦をよく理解する人材が日本に育つことや、軍事的な面での自立が求められるだろう。民主化した中国相手なら、米軍は日本を守らないだろうしね、そういった意味でインドとかミャンマーとか他の中国と接する地との友好的関係が必要というわけか。