カラシニコフ II

カラシニコフ II (朝日文庫)

カラシニコフ II (朝日文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

南米コロンビア・コカインの町メデジンアメリカ・ケンタッキー州のライフル業者、パキスタン北西部・銃密造の村ダラをめぐりながら、銃と麻薬の関係を探り、密輸のコネクションをたどる。世界各地に広がるカラシニコフを追いながら国家とは何か考える、大好評ルポ第2弾。


 「カラシニコフ I」ではアフリカの失敗国家の現状、そこでのカラシニコフの使用についてが書かれていたが、今回の前半は中南米、後半ではイスラーム世界でのカラシニコフの事情が書かれている。
 コロンビアに中国製のノリンコという競技用に改造され、連射が出来なくなり競技用の銃床がついたカラシニコフが多く出回っている。しかし改造されたといってもやすりで改造すれば、すぐに連射することも可能となるのでほとんど変わらない。そのノリンコは、アメリカで売れば300ドルだが、コロンビアで売れば1000ドルとなるため、密輸する人間が後を絶たず、アメリカのライフル業者が絡んだ銃密輸出事件が相次いで判明、摘発されている(05年時点)。そしてアメリカでは銃器業者の半数が違法行為に関わっているという事態になっている。ゲリラたちはその代金をコカインで賄っている部分が大きく、料金の半分をコカインで払うなんてこともしている。
 コロンビアは失敗国家ではなく、政府に国家建設の意欲はあるが、領土がアンデス山地を抱えていて治安確保が難しい土地柄なためゲリラが跳梁跋扈するという状況になってしまっている。
 しかしコロンビアは山が多い国のため、その山々に諸ゲリラが根城を作って交通を寸断しているため、都市間の移動は専ら空路頼りな状況で、陸路で5時間の国内の大都市間の道が10年間も使用されていなかった、しかもその10年ぶりの交通も軍が装甲車つきのコンボイを組んだ車列で移動したというのはちょっと驚き。
 ソ連が崩壊した後カラシニコフのライセンスは切れているのに、各国はイジマシュ社と新しい契約を交わさず現状無ライセンスでカラシニコフの製造を続けているというのはちょっとびっくりだ。
 パキスタンの鉄砲工房がずらりと600軒も並んだ村があり、そこでAKのコピーが作られているというのはなんかすごいな。そんな職人仕事での鉄砲工房の村というのが現代にあったというのは驚きだわ。しかも英軍進行以来、170年もコピー銃で食ってきた村という、この村には何度も驚かさせられるな。
 この村はパシュトゥン人の村で、パシュトゥン人はパキスタンアフガニスタンの国境線で分断されているとなる山岳地帯に暮らしている。パキスタンでは部族地域として、治安を維持する警察も独立しており、ほとんど別個の場所となっている。そしてアフガニスタンは、異質な存在であるタリバンが多くの武器を所持しているため、アフガニスタンの住民は自衛のために銃を所持する。そのため彼らにもこの村で作られた銃が買われていく。
 この本の後半の中東についての章では、英国が植民地支配の都合で引いた国境線のために生じた歪み、たとえばその内部の地域の一体感のなさ、内部に統制の利かない部族がいるなどが書かれている。また近年の米軍侵攻によって一つの治安が破壊された結果治安が悪化している現状についても書かれている。
 アフガニスタンイラクでは米軍侵攻により、フセインの恐怖政治の副産物としてだがあった治安が失われて、治安が回復していない状況にあり、元が英国の引いた国境線にもとづいて出来た国で一体性の欠ける地域であった。そのため彼らは国家に対する帰属意識は薄く、出身の民族集団に対しての帰属意識があるという状況が混乱で治安が低下した状況にあって明瞭となっている。そのため人々が自衛のためにAKを手にするという状態となっている。そして連邦制や個別に国家の独立を図って、それぞれの集団が分離するとしても、ある民族が石油地帯から切り離されたり、新たに分離して自立する民族と同民族を抱える他の国の政情が不安定となるため、そうした他の国(概ね隣接する国)からの警戒もある。他の国にしても領土に居る非主流民族の自立を認めて、国土を何十パーセントも失いたくないし。そのため綺麗な、理想的な解決というのは中々見当たらない。