ジーノの家

ジーノの家―イタリア10景 (文春文庫)

ジーノの家―イタリア10景 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

ミラノの真ん中に存在するという知られざる暗黒街。海沿いの山の上にある小さな家の家主ジーノの人生模様。貴婦人の如き古式帆船に魅いられた男達―イタリア在住30余年の著者が、名もなき人々の暮しに息づく生の輝きを鮮やかに描き、日本エッセイスト・クラブ賞講談社エッセイ賞を史上初のダブル受賞した傑作。



 小説のような読み心地のエッセイ。そしてこの本で語られるエピソードは全部、登場してくる人物がいい人たちばかりだし、綺麗な物語となっているし、終わり方も綺麗なので読後感がいい。また普通に想像する日常の出来事とは違う、一風変わった出来事について書かれていることも、そうした小説っぽさが一段と増す要因となっている
 しかしイタリアは縁故がないと仕事をするのが難しいというコネ重視の社会なのか、僕では生きていけないな、そうした人との関わり合いが大きな社会は。そして南部では就職先が少なく、安定志向のため公務員や教職につく人が多いけど、北部では産業が発達して比較的仕事が見つけやすく、教職の賃金が安いこともあって教職の人気が低い。北部と南部が違いが大きいという知識はもっていたが、教職という身近な職業へ就く人の多さというところでもそうした違いが出てくるというのはちょっと驚く。
 「黒いミラノ」ミラノの町中に『いったん犯罪者が逃げ込んだら最後、警察でも感嘆には探し出せない』黒いミラノと呼ばれる無法地帯があるというのは、いくらイタリアがマフィアとかそうした組織が蔓延っている国とはいえそんなものがあるとは想像の埒外だったわ。それとシチリアで、マフィア関係の事件担当の検事が捜査していた組織のボスから食事に招待され、一対一の対面で食事をしてボスから「そろそろ手を打とうではないか」と言われたというエピソードにも驚く、組織のボスから呼ばれたり、そこに検事が素直にいくというのはなかなか理解しがたい光景だ。
 黒いミラノは、賑やかな地帯から遠からぬ場所だというのにほとんど人が見えない死した町のような情景だというのは、ゾッとするなあ。
 「リグリアで北斎に会う」北斎の生まれ変わりだと述べるもと技術者のイタリア人と、彼の画業に寄り添う謎の日本の老婦人に会った話、彼らみたいな人物は村上春樹の小説にでも出てきそうなキャラクターなので本当にノンフィクションなのか、現実にあった話なのか、夢か現か、境がわからなくなってしまう。
 「黒猫クラブ」居住するアパートが火事になってしまったが、火事のあいだ中、不安になりながらアパートの面々が顔を突き合わせていたので、火事が終わった後みなでパーティーをすることになる。あまり頼りにならないと思っていたアパートの男性陣が、火元と見られる最上階の寝たきりの婦人を助けるべく火の中に突っ込もうという積極性を見せている、実は頼りになるというギャップがあるのはいいね。まあ、直ぐに救急隊がくるからと著者に止められたけどね。
 「犬の身代金」いつも朝に会う犬仲間の犬が誘拐されて、それを引き取りに行く男性陣が変装するための服装のチョイスはどうかと思うが、ブルーノが押しの強さを見せて、さっさと低い金額で犬を引き取っていったのはちょっと格好いい。
 「サボテンに恋して」他のエッセイ以上に小説っぽくルチアの心情を勝手に類推して語っているが、真相はぜんぜん違うものだったというオチにはちょっと笑った。
 「私がポッジに住んだ訳」チリからイタリアへ帰ってきた人を迎え入れるために、港町へ行くシスターに偶然出会い、それが切欠となって、そのシスターがいる教会に付属しているような家に住むこととなる。そこは多国籍で、宗教もキリスト教徒とは限らないし、貧しい人など、色々な人々が住む場所だがシスターたちの優しさ、善意が根底にある場所で、書かれている住民たちも明るい人が多いので、不思議と良い場所だと思える。