出世ミミズ
- 作者: アーサー・ビナード
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/02/17
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
ランドセルとは、もしや動物の学名か?アメリカにも天狗はいるのかしら?出世魚の英語版は、ひょっとしてミミズ?―自転車で東京をめぐりながら、アメリカ生まれの日本語詩人は問いかける。習字教室に通って小学生と席を並べ、パン屋のおばあさんといっしょの短歌会に入る。みずみずしい視点と愉快な驚きにみちあふれた著者初の文庫オリジナル・エッセイ集。
エッセイ。4つの章にわかれていて、奇数の章は2ページ弱の短く、偶数の章は5、6ページともう少し長い。とても読みやすくてサクサクと読めた。解説に短いエッセイでもきちんとオチをつけていると書かれていて、わざとらしく自然とオチがあるからそんなに読みやすいのかと合点がいった。それから日本と米国を比較して片方を褒めたり、けなしたりというのがないのもいいね。
しかし相変わらずこうしたエッセイは読みやすいのはいいのだけど、いまいち感想が書きにくいな。
同じ魚とか昆虫の日本語と英語のネーミングの違い、強調されるアングルの違いから新鮮な驚きを得たり、それらの語感で変わる印象について書いていたりするエッセイは面白くて好き。
シカ、毎年生え変わるのに、齢を重ねるごとに枝分かれが増えるというのは不思議だなあ。遺伝子がそうなっているんだろうけど、なぜそういう進化を遂げたのだろうか。
著者は自分の「COLD」の概念が大雑把だったので、今までに経験したものを寒いと冷たいに振り分けなければ日本語で「COLD」を騙れないと考えて、全身で感知するのが寒さで、体の一部が感知するのが冷たさ、と具体的にわけた結果、その区分けに納得がいった。今までは寒いと冷たいの使い分けはなんとなくで行っていたので、明確には違いを意識していなかったので、そういわれてみればそうかと感心。
近所のパン屋のおばあさんが何かを指を折って数えたりしながら、課ノートを広げて書いたり消したりしているのを見て、何をしているのか尋ねたことをきっかけに彼女が入っている短歌会に著者も入り、短歌を毎月一首詠んでいる。そうした短歌だけではなく、謡いも勉強しているというのはすごい。
参加している短歌会や謡いの教室を述べた『「鼻たれ小僧」をめざして』は詠んでいて面白いし、実際に参加してみても著者のように言語能力が高くないから面白いと感じられるかわからないが、ちょっとそうした教室に要ってみたくなってくる。
小中学生が通うような習字教室に月に一回15年も通っているというのは、なんだか凄い話だ。もうその習字教室の主みたいな存在となっていることだろう。
子供の頃のつり道楽の父とのエピソードが結構良くでてきている。
メジャーのストライキ期間中に、アメリカから日本シリーズを取材しにきた記者の通訳を著者はしたが、そのときに長嶋監督の言葉を聴いて、聞いているときにはなんとなくわかった気がするのだが、英語に置き換えようと思うと『まるで蜃気楼が消えうせるように、水がざるからスーッと抜けるように、ほとんど何も残らない。』(128)という感覚に陥ったという話はクスリと来る。
それと章の扉に掲載されていた写真は何かと思いきや、著者と少し親交があって、後のほうのエッセイに出てくるクルーガーさんという人の作品か。
アメリカでは釣堀みたく、柵の中に動物を解き放ってそれをハンティングするという施設があり、そこでは北米に生息する一般的なハントの対象になる動物からシマウマのようにわざわざアフリカから輸入した動物などを選択して、それを柵の中に解き放ってその動物を撃てるというのは絶句してしまう。普通の自然にはいっていっての狩猟なら好意をもてるのだが、釣堀みたいな形で銃で動物をしとめるというのはちょっとショッキングだ。
窮鼠猫を噛むのように、潰す側が痛い目にあうという言葉はないというのはちょっとへえ。