フットボールの犬

フットボールの犬 (幻冬舎文庫)

フットボールの犬 (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

きっかけは、ベオグラードへの空爆により取材予定の国際試合が中止になったことだった。民族、宗教、政治、テロ…。サッカーというフィルターを通すと、世界の矛盾や人間の業が如実に見える。本場イタリアから辺境のフェロー諸島まで、欧州16カ国のサッカー事情を徹底取材。第20回ミズノスポーツライター賞受賞の傑作ノンフィクション。


 1999年から2009年までの(解説いわく)サッカー紀行文をまとめたものだが、それぞれの記事のあとに付記として、文庫化当時までにあった取材したチーム、リーグ、選手の後日談が付されている。
 著者の本は以前に「幻のサッカー王国」を読んで以来。サッカーが特別隙というわけではないのだが、世界では人々にとってサッカーが特別な地位にあることが多いイメージがあるので、この本のようなサッカーを扱った本は少し読みたくなってしまう。ただ、サッカーの本なら何でもというわけでは全然なく、著者は解説にもあるとおり、サッカーの話を軸としているが、その周辺のものも書いてくれるから読みたくなるのだが。個人的には正直野球でもサッカーでも純粋にそれだけの話なら、わざわざ読まないし、その周りの面白い物語を書いてくれると思うから読むんだ。
 ヨーロッパの5大リーグがあるような場所でなく東欧だったり、フェロー諸島やマルタのような人口数万から数十万といった国のリーグなど、欧州サッカーのメインストリームから外れた場所でのサッカーの風景を主に描いている。
 アイルランドでは北アイルランド(英国領)とアイルランドに2つの協会、リーグがあるが、ラグビーではアイルランドでひとつのチームを形作っているというのは不思議。というか個人的には、どちらかというとラグビーの同じ民族とはいえ二つの国に分かれていて、宗教もプロテスタントカトリックと違うのに、同じ代表を構成しているほうが奇異に見えるのだが。
 2002年当時ピクシーが引退しているのに、わざわざ日本からユーゴスラヴィアの代表を見に、欧州まではるばる行くような人が何人もいるというのは驚き。著者が乗った飛行機には、著者を含めてユーゴ代表戦を目当てに渡航する日本人が5人もいたというのだから、何十人かは見に行っていたのかね。
 「ナカタ」の実像を探りに、彼とプレーをともにした元チームメイトらに尋ね歩いた話が載っているが、これも当時見ていれば面白かったのだろうけど、現在と10年以上が年月が離れていて、とうにナカタも引退して、変なバッシングとかもなくなった今から見ると面白みとか新鮮味がなくなってしまっているなあ。まあ、こうしたスポーツの話には、特にこうした雑誌などに掲載されていた文章をまとめたものだから、仕方のないことなのだが。それでも、まだ面白さがあるのは、いろいろな取材している土地のサッカーの周りの話や、サッカーを愛する人を書かれていたり、フェロー諸島とかマルタとかの非常に小さくて、その地のサッカーを扱ったものがなかなかでない場所について書かれているからだろうな。
 フェロー諸島対馬の倍程度の土地に4万8000人の人口だが、独自の協会、国内リーグ、代表チームを持つFIFA加盟国。ちょうど著者が見に行った代表戦(ドイツ戦)では、89分までドイツ相手に無失点に収め泡や引き分けなるかというところまで行った試合で、最初は代表戦とは思えないほど相手チームに対して友好ムードだったが、時間が経過するごとにもしかして勝ち点取れるんじゃないかという期待が膨らみ応援に熱が入っているのを見るのはなんだか頬が緩む。しかし国内リーグは兼業選手だけだから、プロといえるのが外国でやっている3選手しかいないのに、そこまでやるとは大健闘だよ。
 うらぶれた旧東ドイツにあるスタジアムから、現在にも残る東と西の差を見て、東ドイツ旧東ドイツで活躍したサッカー関係者3人に取材しているが、存外そうした差を受け入れているし、東ドイツへの懐古の念に関してはほとんど会務という、おそらく最初に著者が予想していたものとは違う結果であったろうに、それをそのまま載せているのがちょっと面白い。
 ペテルブルグ、多くの河川と小島と橋で構成されているとしだということは知らなかった。まあ、正確に言うとたぶん忘れていたのだと思うが。