理系の子


理系の子 高校生科学オリンピックの青春 (文春文庫 S 15-1)

理系の子 高校生科学オリンピックの青春 (文春文庫 S 15-1)

内容(「BOOK」データベースより)

インテル国際学生科学フェア―それは高校生による科学のオリンピック。世界中の予選を勝ち抜いた理科の自由研究が集い、名誉をかけて競う。出場した少年少女たちは、どんなふうに育ち、なぜ科学に魅せられ、どんな研究をやってのけたのだろう?十歳で独力で爆薬を製造、やがて「核融合炉」の製作に挑んだ少年。自閉症を持ついとこのため画期的な教育プログラムを生み出した少女。少年院で非行少年たちの眠れる知の才能を発掘した熱血理科教師。ハンセン病に感染してもへこたれず、らい菌の徹底研究を開始した少女。そして小さな虫を手がかりに太古の地球環境を解明した日本人の少女。ほか研究に青春をかけた理系少年少女たちの感動の実話。科学はこんなにもおもしろい。

 アメリカで盛んに行われている中高生の研究が出品され、その成果を競うコンテストであるサイエンス・フェア。その中でも最も大きな大会である国際学生科学フェア(ISEF)、その2009年大会に出場する何名かの有力な学生たちと、過去のISEFの有名な出場者の幾人かに焦点を当てて、それぞれ一人一章を費やしてその研究だったりその学生のそれまでの歩みが書かれている。2009年のISEFの出場者から6人、過去ISEFの出場者から5人にスポットがあてられている。
 ISEFへの出場者の5人に1人が特許を出願し、その研究のレベルも大学院・博士課程の水準を上回るものが多い。出場者の各々が独創的で、自分が関心と強い情熱を持って、作り、調べた高度な研究成果を発表する。そんな科学に魅せられた学生たちのストーリーが書かれていて、面白い。
 そしてISEFで優秀な成績を収めたら賞金だったり、あるいは奨学金なんかを手に入れることもできる。
 「核にとり憑かれた少年」テイラー・ウィルスン。親をはじめ、周囲の理解や助けを得ながら、核融合炉を作り、最年少で31人目の中性子クラブのメンバーになる。
 彼みたいに強くその分野に関心を抱いて、研究をした学生たちの純粋な情熱が感じられて面白い。
 「ゴミ捨て場の天才」インディアン特別保留地で貧しい生活を送っていた少年が、寒い部屋という生活の不便を改善するために創意工夫して、車のラジエーターと空き缶と太陽光を利用して部屋を暖める装置を開発する。
 他にも、ハンセン病にかかったが早期治療で何事もなく回復しハンセン病への偏見打破のため自分が表に出て活動してその病気の研究を発表した少女、少年院から天文の研究でISEFに出場した少年など、さまざまな出場者の物語が書かれている。
 「デュポン社に挑戦した少女」企業城下町で、水のPFOA汚染の除去が行われたが、短い期間でPFOAの濃度が上がっていて、フィルターが短期間で飽和していることを知り、その除去方法を研究していたが、なにぶん企業城下町で、父はデュポン社に勤めていて、姉もデュポン社社員なので、家族や友人からもそうした研究をよく見られず、四面楚歌な状態でPFOAの除去方法を研究した。本人も対決するという意識はなかったのだが、デュポン社側はそれが話題となって、企業イメージがダウンすることを恐れて、その研究をまったく歓迎しなかった。
 「手袋ボーイ」ライアン、2歳のクリスマスの時にプレゼントで欲しいといったのが延長コードで、3歳の時にはスイッチの光るマルチプラグを欲しがり、4歳にはチェーンソーという、流石にチェーンソーは買い与えなかったようだが、そのラインナップには驚きだ。子供が欲しがりそうなものではない、というそれを魅力的に感じる感性が凄いな。
 彼が小学3年の時に両親は、定年退職後の電気後工学に精通した物理学者に指導をお願いし、彼らはすぐに互いの能力をわかりあい、よき師弟でありよき友人というコンビになって現在まで長く親交が続いているという、その関係はなんだかほっこりしていいな。
 「ロリーナの声に耳を傾けて」自閉症の従姉妹を持った少女が、その従姉妹と真摯に向き合うことで、新たな教育プログラムを作りそれが効果を挙げる。
 「第二のビル・ゲイツ」フィリップ、14歳のとき、カーボン・ナノキューブ研究の最前線をしている大学教授の研究助手をしていたというのはまるで漫画の世界の出来事みたいなのに、実際にそうだったというのはびっくりするわ。
 ラストの12、13章ではISEFの会場での審査だったり、出場者間の交流や授賞式の様子なんかが描かれている。
 そして巻末にはISEFに参加した日本人が特別寄稿としてその大会のレポや、その人とHONZ代表の人との対談が付録的についている。