イギリスは愉快だ

イギリスは愉快だ (文春文庫)

イギリスは愉快だ (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

林望はイギリスにいた。ある時はテレビのスポーツ中継を前にふと立ち止まり、アフタヌーンティーの時間におもいを巡らす。はたまた大英図書館で気付いたイギリス伝統の個人主義とは―優しく切ないイギリスを、豊饒な文章で綴る『イギリスはおいしい』に続く第2作。『おいしい』と『愉快だ』の秘話を記すあとがきも掲載。

 「イギリスはおいしい」に続くエッセイ集。単行本のほうで読了。
 当時のイギリス(ロンドン)ではBBCがチャンネル2つで、他には民法が2つあるきりだというのは意外な少なさ。
 著者がケンブリッジ大学の近辺に時期はずれ(学期が始まってから)に引っ越そうとしたが、なかなかうまい場所が見つからず、偶然からケンブリッジからちょっと遠い村に親切な老婦人であるボストン夫人の家の母屋に隣接したマナーハウスを借り受けることとなる。そこで生活していた8ヶ月は、イギリス人のよさを知るのにずいぶんと良い体験ができた時期だったようだ。
 著者はボストン夫人の見知らぬ東洋人相手に、はじめから相手(著者)をすっかり信頼して部屋を貸すというような態度に感動したようで、それが彼のイギリスびいきとなりはじめた理由の大きな一つなようだ。
 このボストン夫人とのエピソードが多いが、彼女はいい味だしているから、読んでいて面白いな。
 当時のイギリスのホテルではシャワーがない、つまりバスタブしかない浴室というのも珍しくなかったというのは、ちょっと驚く。さすがに現在ではそんなことはないだろうとは思うが。
 日本語では洪水と訳される『フラッドというものは、日本の洪水とはまったく違った現象で、静かにゆっくりと河の水位が上がって、そのままひたひたと音もなく両岸に溢れ、あたり一面水浸しにしてしまうことなのだ。水はあくまでも清く澄み、緑の牧草地の上にじっと溜っているだけで、枯枝一本押し流しはしない。そうして、一週間もすれば、ふたたび静かに水位が下がっていって、またもとの青々とした草原に戻る。あとには、泥の一かけらも残さない。イングランドの低湿地帯(フェンランド)の「フラッド」は、まったく災害ではなく、冬のひととき人々の目を楽しませてくれる幻の湖なのである。』(P114)そんな幻想的な現象があると初めて知ったが、それを写した映像があるならぜひ見てみたい!しかし著者はその「フラッド」を知らずに、出し抜けにそんな光景を見たのだからさぞ驚いただろうし、感動しただろうな。
 『イギリスにも勿論熱心なキリスト教徒がいることは、否定できない。しかし、それは多分日本における敬虐な仏教徒と同じくらいの割合でしかないだろう』というのは、現代日本が格別そうした宗教心の薄いのかと思っていたが、イギリスもそうなのね。無論宗教についての知識はイギリス人のほうが、日本人よりずっとあるだろうから、一緒くたにしては失礼かもしれないが。
 『イギリスではクリスマスケーキとクリスマスプディングとは全然別物で、並びに賞味するのが本当であるらしい。』(P192)古風なのか新しいのかどっちか一つを選択して、というのではないのか。まあ、それならプディングは廃れてしまいそうだけど。
 しかし児童文学者であったボストン夫人は自分の住んでいる家を舞台に有名な小説シリーズを書いていた。著者はそうした小説の舞台に暮らしたのだが、それはちょっとうらやましいな。