戦争の足音 小説フランス革命9

戦争の足音―小説フランス革命〈9〉 (集英社文庫)

戦争の足音―小説フランス革命〈9〉 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

フイヤン派による弾圧で無実の人々が殺され、怒りに燃えるロベスピエール。そんな中、ついに憲法が制定され、改選議員による立法議会が開幕した。フランスの政治は新たな段階に入ったかに見えたが、諸外国からの革命に対する圧力は増し、その脅威に対抗すべく戦争を望む声が国内で高まってゆく。不穏な空気の中、ロベスピエールが取った道は。フランス再生はかなうのか?革命が岐路に立つ、第9巻。


 これで小説フランス革命の第一部も読み終わったので、第二部が文庫化されるまでどのくらいか知らないけど待つことになるな。視点となるキャラクターは結構絞られているし、彼らも人間臭く、忘れがたいキャラたちだから忘れないだろうが、細かな面々は第二部になるときには覚えていられるかどうかわからないけど、第二部の最初の巻でも前回までのあらすじと主要登場人物の欄がついていると思うので、安心。それにこのシリーズはやっぱり面白いから、1、2年をあけたくらいでは、細かいところはともかく、大筋は忘れないだろうしね。
 シャン・ドル・マルスの虐殺が起きたことに、ロベスピエールは少なくともちゃんと革命が起きてからはなかった強い怒りをあらわしているのを見て、これが彼にとって一つの転機というか、見ていて、そして彼がどうなるかまで知っているので、ここが帰還不能点とはいかないまでも、後に敵味方にスッパリと分けて敵に非情になることができた一つのきっかけなのではないかと思えてならなかった。
 フイヤン派が国王廃位の署名活動を開始していたコルドリエ・クラブに対して銃を用いて弾圧した事件は「シャン・ドル・マルスの虐殺」と呼ばれて、パリの輿論では受動市民だけでなく穏健なブルジョワ階級を軸として能動市民の大半がジャコバン・クラブやコルドリエ・クラブに同情しているようなので、冒頭の段階ではロベス・ピエールは監視されていて危ない状況だが、流石に多くの人間はフイヤン派の行為を批判しているということを知り、これから継続的にジャコバン派が弾圧されるということはなさそうだというだから安心した。最終的に彼らが、ロベスピエールが政権を担うことになるというのは知っていても、それまで長々と弾圧されている描写が続くのは気分が重たくなってしまうから、史実がそうじゃなくてよかった。
 一回目の議会が終了して議員のお役目が終わるとき、市中は単純に祝福ムードだが、ロベスピエールとペティオンは、フイヤン派が成立させてしまいたいと思っていた憲法が成立してしまったこともあり、喜べないと思っていたが、少数ではあるが、彼ら目当ての市民がいて、ロベスピエールとペティオンの2人だけが真の勇者で、祖国の父あると褒め称え、それに彼らが予想外のことに喜んでいるのを見ると、彼らの議会での苦闘がその一言だけで報われた気がして、なんだか嬉しくなってくる。
 議員の再選は禁止されたため、ロベスピエールも他の政敵である三頭派やラ・ファイエット連中も一旦議員という立場を失い、政治の表舞台から身を引く。まあ、彼らクラスの大物だと、裏でまとめ役なりなんなりをやっている人間も多そうだが。
 今まで右派勢力がいなくなり、ラ・ファイエットたちと共闘することになったとはいえ、かつての同士たちがかつて右派がいた場所に座っているのを見ると、彼らとの明確な断絶がまざまざと感じられるようだ。もちろん右派、左派というのは相対的なものだろうし、中間の沼とか平原派などと言われる議員たちよりも、右派と左派のほうが近いんだろうなあ。
 しかし逃亡後に自分の価値を自覚したのか、政治の舞台で王の存在感が強まっているが、失態をやらかした後なのにかえって強まるというのはちょっと不思議だねえ。しかし王が主体となり、戦争でフランスが負けることで自分の地位を取り戻そうとする謀略をしている。それまで末路を知っているということもあり、同情的にルイ十六世の行動を見ていたのだが、そんな売国的所業をしようとしているのをみるとそんな気分はとてもではないが吹き飛んでしまった。それになんだか小物な黒幕みたいな感じになっちゃっているしね。
 再選禁止で選挙を行い、議員を一新した新しい議会だがジャコバン派フイヤン派相手に健闘しているというのはちょっと意外だった」。
 ロベス・ピエールは帰郷して、パリに居たときは田舎はジャコバン派の支持基盤だと思っていたが、田舎でもパリと同様にエリート層はフイヤン派で、さらに宣誓に従った僧侶は公務員化して神秘を失ったように見られていて、かえって宣誓拒否僧のほうが徳があるように思われていて、その彼らが反革命を唱えているので、ジャコバン派支持層は田舎でもとてもじゃないが磐石とはいえないというのが現状のようだ。
 美しく潔癖な革命家サン・ジュスト、今回初登場でフランス革命に詳しくないから名前も知らなかったのだが、解説を読んで彼は後に「革命の大天使」「恐怖政治の大天使」と呼ばれていることを知ったが、本文だけでも、ロベスピエールの反応だけでも尋常じゃない美貌が伝わってくるし、わずかな登場でも忘れ得ない印象的なキャラクターだ。彼はロベスピエールを尊敬しているようだが、ロベスピエールも彼とあったことで初心に戻ったというかより妥協をしない性質があらわになってきたな。そしてこの相乗効果が後に行き着くとこまで行き着いてしまうわけか。
 世間は戦争をすべきだという空気に傾いて、それを先導してきた張本人であるブリソや現パリ市長のペティオンと、指揮を取れるクラスの人間が信用ならないというフランスの現状では負けると反戦をうちだしているロベスピエール(デムーランも心情的にはこちら側)との対立ができて、両者に亀裂が走っているため、ジャコバン派は再度分裂の危機にさらされている。
 革命時は同士で、かつてジャコバン・クラブの一員であったが、現在はラ・ファイエットと手を組んだ三頭派の首魁クラスのパルナーヴが、もう政治を辞めて田舎に戻るとかつての同志であるロべスピエールにわざわざ言いにくるというラストの31、2節のエピソードはいいね。ロベスピエールは政敵ながらも、一旦帰郷して田舎では政治ができないと身にしみているから、彼の才能を惜しみ、またかつての同士の脱落に寂しさを感じ、引き止めるようなまねをして、パルナーヴは今後も不本意ながら革命が続き、そのときはロベスピエール、君が指導すべきだと思うといっている、袂をわかちながらも互いに認め合っているというのはいいね。