二流小説家

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

内容(「BOOK」データベースより)

残忍な手口で四人の女性を殺害したとして死刑判決を受けたダリアン・クレイから、しがない小説家のハリーに手紙が届く。死刑執行を目前にしたダリアンが事件の全貌を語る本の執筆を依頼してきたのだ。世間を震撼させた殺人鬼の告白本!ベストセラー間違いなし!だが刑務所に面会に赴いたハリーは思いもかけぬ条件を突きつけられ…アメリカで絶賛され日本でも年間ベストテンの第1位を独占した新時代のサスペンス。

 最近は継続して読む力が弱まってきているので、400ページとかの長さの本だとちょっと読むのに躊躇してしまうので、1年以上積んでいたが最近電車の中で読む用の本として持ち歩いていたら意外と、いや、かなり読みやすくてあっという間に読み終えてしまった。
 主人公ハリー・ブロックはゴーストライターをしたり、ポルノ雑誌で記事を書いたり、あるいはいろんな名前でSF、ミステリー、吸血鬼ものなどの小説シリーズを書いている作家。
 しかし主人公が、現在している自分の仕事に満足していないとはいえ、現在まで自分が作って世に出してきた小説や、その読者を冷笑しているようなのは、個人的に堅苦しい小説や実験的な小説は苦手で、彼が書いているような小説のほうが好きというのもあって、とてもじゃないが好感をもつことができないな。だって、本人は自分の小説を嫌悪しているが、彼の各小説シリーズの熱心なファンが小説内に登場するなどしているのだから、小説家としての力量はあるはずのに、それなのに自分の小説を認めたがらないのはかわいそうだよ、誰もが。実際途中途中でさしはさまれる、彼の小説の一部分を見るだけでもちょっと面白いもの。
 ヒロインの少女クレアはいいね。こういう大人ぶってリードしてくる、世話女房的な少女のヒロインって好きだな。まあ、自身も言っていた(と思う)探偵小説(海外)にありがちな女と寝るシーンとか色っぽいことは、ダニエラとしていて、主人公の気持ち的にも出会って日が浅いダニエラに向いているのだけど。しかしダリえらと複数回寝ていることが書かれているのは、本人はハードボイルドではないけどハードボイルド的だな(まあ、そういうのあまり読まないからイメージだけど)。まあ、アメリカで主人公が大人なのに女子中学生をヒロインとするのは危険すぎるから仕方ないけど。
 主人公は書く名義ごとにその小説の雰囲気に合った知人に頼んで写真を撮らせてもらって、その写真を著者近影にしている。吸血鬼小説では、母の写真を著者近影として使っていたが、母が逝去したため、自身が母の仮装と化粧をして、そして修正を施して、なんとかごまかして新たな著者近影を撮影したということなので、小説を出すときに著者近影を毎回のように撮らなければならないようなのは、日本とは違うから、ちょっと驚いてしまう。
 主人公のポルノ雑誌に書いていた頃の名義にかつて世間を震撼させた殺人鬼ダリアンから手紙がきたところから物語は始まる。
 ダリアンは彼の「ファン」の女たちを取材して、彼女らと彼のポルノ小説を書くことを依頼し、代わりにハリーが求めているダリアンの話を、いまだ自白せぬ殺人鬼の独白を聞く権利を与えるという申し出を受ける。ポルノ小説を自分が作家自身にあって、自分のためにポルノを、つまりその後それを自分がどうするかまで相手に知られているも同然のものを書かせるなんてどうかしていると思ってしまう。
 ダリアンを逮捕したFBI捜査官タウンズは、彼がダリアンの本を書こうとしていることを聞いて、遺族たちがそれを辞めてほしいといっているということもあるが、自身が退職した後に出版する契約を結んだ回想録の売り上げ、注目などが落ちてしまうからというのもあるだろうというクレアの推測には、それまでハリーが自分が小説に書いた探偵のように圧力に屈しなかったことに興奮していたが、それを聞くとハリーが彼との会話の緊張感・罪悪感の幾分かが無用のものだったと感じるから、なんだか思わず少し笑いがこぼれてしまうな。
 小説の中盤でダリアンのファンの女たちの取材のあとに忘れ物を取りにその家に戻ったら、襲撃を受けて気絶をして、気が付いておきたら、その取材していた女の死体が猟奇的な殺され方で目の前にあったというシーンに見て、過去の事件を犯人の口から聞くだけじゃミステリーにならないから何かしら事件が起こるだろうと思うべきだったのに、思ってなかったからとても驚いて、そういえばこれは年間ベストなったミステリーだし、このまま順当に進むわけがなかったのだと気づいて、そんな当然のことを失念していた自分のうかつさに思わず頭を抱えたくなった。
 事件現場に居合わせたことで嫌疑を受ける身になったハリーを、クレアが自分の家の弁護士を連れてきて、彼の弁護士だといって、彼と共にFBI相手にも物怖じせずに交渉していた、その押しの強さは心強いねえ。
 新たに以前に起こったのと事件が起こったことでダリアンが冤罪の可能性も出てきた、彼の告白本を発表しようとしたので真犯人が自分の手柄を奪われることを嫌って新たに殺しをした可能性もあるということには、思わず目を見開いて驚いた。その話を聞いて、また、ダリアンの頭の良さも見えてきたし、たいした役者だということもわかったので、ダリアン自身それを狙った可能性もあるようにも思えてきたため、果たしていったいどうなるのかが皆目見当がつかなくて、一段と面白くなってきた。
 それで誰が犯人かを考えて被害者遺族でハリーと親密になっているダリエラが怪しいと思ったが、ハリー本人が途中で彼女を怪しいと思っていることが明らかにされたので、それではこの人じゃなさそうだと思って、あとはその他に誰が怪しいというのは絞れなかった。クレアも親密で、情報を知れそうだからありうるかなとも思ったが、前の事件が発生した当時子供だし、それなのに今回わざわざ連続殺人を犯す理由が皆目検討つかないから、違うだろうと思って(それにクレアを疑いたくないとも思っていたという理由もあるかもしれない)、でもそれなら誰?となったまま読み進めていた。
 結局、思わぬ人物が犯人で、その人がダリアンとの思わぬ関係だったことが明らかになって非常に驚いた。しかし犯人が明らかになるのが、推理によってではなく、偶然にも犯行現場、
 このたびの事件の犯人が捕まった後に、タウンズ捜査官がハリーに好意的になり、彼との関係が非常に良好なものとなっているのはなんかいいね。
 犯人が捕まった後に今回の犯人が以前の反抗を含めた「全ての」犯罪を自白してタウンズが少し困っていたときに、ハリーはタウンズに見せられた当時の写真から、ダリアンが殺人をしていた証拠を見つけ出したり、あるいは発見されていなかった遺体の頭部が埋められていた場所など、犯人が捕まった後にそれぞれ間をおいて、偶然から気づきを得て、新たに3つの小さな真実を見つけて過去にダリアンが犯した連続殺人事件の真相を明らかにしている。それぞれちょっと作中時間的には間をおいて3つの発見をしているから、そうやってハリーが活躍しているって印象が強まるし、それぞれでのタウンズ捜査官などの喜んでいる反応を見るのは嬉しい。そして、そうした折々でのタウンズとのやりとりはいいねえ。そういう諸々のこと(例えば短くハリーの活躍がぎゅっと詰まっているなど)もあって、むしろ犯人が捕まった後の話(現在に起こった事件ではなく過去に起こった事件についての新事実、今まで謎だった部分(遺体の頭部がどこにあるか)が明かされるパート)も抜群に面白かった。
 しかし最終的にクレアと疎遠になってしまったのは悲しいなあ。