世にも奇妙なマラソン大会

内容(「BOOK」データベースより)

サハラ砂漠でマラソン!?ある深夜、ネットでサハラ・マラソンなるサイトを見つけた著者。酔った勢いで主催者に参加希望のメールを送ったところ、あっさりと参加を認める返信がきた。開催まではたった二週間あまり。15キロ以上は走ったこともないランニング初心者の闘いがいま始まる―。表題作のほか、「謎のペルシア商人」など著者の“間違う力”が炸裂する超絶ノンフィクション作品集。


 ひとつの話で一冊というわけではなく、短編・中篇クラスの短い話がいくつも収録されているノンフィクション。
 タイトルにもなっている「世にも奇妙なマラソン大会」は、冒頭に収録されていて、サハラ・マラソンの話。
 著者はなにか面白いことはないかと深夜にネットで探しているうちにアルジェリアにある西サハラの難民キャンプで行われる砂漠の中を走るというサハラ・マラソンの存在を知り、これは面白いと、深夜のテンションままに、走ったことのある最長の距離が15キロで最近三週間はまるで走っていないというのに、つい「ぜひ参加したい」とメールを送ってしまった。
 そして妻にそのことを報告して、その時期に不在になることで不都合はあると聞いって、あわよくば引き止めてもらいたいとも思っていたようだが、別段ないとの返答を得て行けない理由がなくなって困惑している。しかし『妻はよくできた人だ。というより、新婚半年もしないうちに私が長旅に出たあげくミャンマーのジャングルで行方不明になるという事件以来、何が起きてもすぐ冷静さを取り戻す習性がついていた。』(P21)というのは、それが全くのノンフィクションだという事実に思わず笑ってしまう。
 「巨流アマゾンを遡れ」で著者の反対側からアマゾンを移動していたが、泥棒など色々アクシデントがあって一文無しなった結果、著者と合流するときにはなぜか服売りとなっていた宮澤さんなども、高野さんからその話を聞いて面白いと思い、そのマラソンを撮影するために共にサハラに赴く。
 西サハラ情勢は91年にモロッコと停戦して以降は動きがなく、西サハラの住民の多くは遊牧民で誰が本来の住民か証明することが難しく、選挙に持ち込まれると困るモロッコはそこをついて西サハラ側の「住民」定義を否定した。一方モロッコは占領してから送り込んだ植民者を住民と主張するが、それは当然西サハラは認めず、主張が平行線上の状態で占領を継続して既成事実化する腹だ。
 西サハラを熱心に支援しているのはリビアキューバアルジェリアなどの反米諸国なので、欧米諸国が西サハラ問題解決に熱心に動かない。
 西サハラはスペインの植民地だったということもあって、民間レベルでスペインからの支援が多く、そうした支援でスペインへの留学する人が多いため、もともとスペインの植民地だった事情もあってスペイン語が多く話されている。著者は現在はスペイン語で話すことができず、また英語で話せる現地の人も近くにいなかったということで、いまいち現地の人たちと交流することができなかったみたいだ。
 『間違っているといえば、足が攣っても走っているのが間違っている。両足が全部攣っても走れるというのは発見だ。』(P115)高野さんの本は、こういったユーモアのある表現や文章がいっぱいあるので好きだ。
 しかしぶっつけ本番に近い形なのにフルマラソンを走りきるとは驚いた。
 「ブルガリアの岩と薔薇」「メモリーエスト」の最後の日と探しが終わって、ベオグラードからブルガリアのソフィアまでバスで移動している最中に、少し言葉を交わした中年の男性の家に宿泊することになった。バス車中で話しているときも少し、怪しいなと思っていたが、その男性は同性愛者の人で、彼は自宅に着いたら著者に対して熱心に口説いてくるなど、積極的にアプローチしてきた。流石に実力行使はしなかったようだが。著者は優しく、根気強く扱われることで女性が味わっているだろう心地よさを味わい、それと同時に無理やり迫ってこないかという女性が味わっているだろう不安や恐怖も味わった。
 「名前変更物語」「西南シルクロードは密林に消える」で国境を勝手に越えたということもあり、入管のブラックリストに入ってしまったので、尋常な方法ではインドに入国することができないので名前を変えようと、一旦離婚して直ぐに再婚することで、妻の名字に変えようとする。しかし実際あとは名前を書くだけという段階になって、妻がもう「高野」という名字に慣れてしまったから、元の名字に戻すといっても、新たに別の名字を変更するのと同じだといって拒絶した。別の方法を考え、名前の漢字の読みを変えることでブラックリストをすりぬけようとした。実際に、銀行の読み仮名や電気の領収書の名前を「タカノシュウコウ」に変えて、パスポートの名前を変更する最後の最後になって、国外退去の経験とかは名義変更審査の際にチェックするといわれたこともあり、この計画、インド入国をあきらめ、親身になってもらった旅券課の人に詫び状を出す。しかしその計画の余波として、名義を変更したところと変更していないところが色々入り混じっているため、色々と困ることがあるようだ。
 「謎のペルシア商人――アジア・アフリカ奇譚集」新たに取材してきた話ではなく。以前経験したり、人から聞いた不思議な物語を書いた短編をいくつか集めたもの。「謎のペルシア商人」インドであった日本でペルシア絨毯を広めたというイラン人、色々と有名な日本人の作家やデザイナーの名前も出てきて騙されたのだが、お金を取られたわけではなし、何のために騙したのかも不明な不思議な話。