ロシア人しか知らない本当のロシア


ロシア人しか知らない本当のロシア (日経プレミアシリーズ)

ロシア人しか知らない本当のロシア (日経プレミアシリーズ)

内容(「BOOK」データベースより)

食品スーパーに行列が続き、わずかな缶詰類で空腹を癒したソ連末期。高級外車が街を走り、不動産ブームに沸く今日のロシア―。モスクワで生まれ、ソ連崩壊とその後の経済破綻を経験、日本に帰化した女性エコノミストが、自らの体験と経済専門家としての分析を加えながら祖国を活写する。

 著者名からは想像つかないが、著者はロシアから帰化した人。
 ソ連体制崩壊前後の物資が手に入りにくかったりした厳しい時代についてのエピソードについて少し触れられているが、当時のソ連のそうした状況を内側からの視点で書かれているが、そうしたものは読みたいと思っていても読む機会に今までめぐり合っていなかったので、そうしたものは貴重なように思うし、ちょっとしたエピソードでもそうしたものは面白い。まあ、そうした時代のエピソードが主眼でなく、「日経プレミアシリーズ」から出ていることからも想像が付くように、そうした時代から現在のロシアの経済状況の変化、現状などの経済的な話がメイン。
 ソ連末期。物資不足で、モスクワはまだいくらか多くの商品があるけど、それでも必要最低限の食料品を手に入れるのに行列して、あまり選り好みせずに買わなければならなかった。しかし地方はもっと深刻だったので、地方から買出しのために列車で数百キロ離れたモスクワに向かう多くの人々で『モスクワの大きな駅はどこも、戦時中でもないのに避難民のような格好の群集であふれていた。』(P13)。
 著者は肉を買うための行列は長いので、あまり人気のなかった冷凍イカや昆布を食べていた。しかし『あのころの記憶のせいだろうか。私は今でも昆布が好きである。イカの料理もレパートリーを増やし、よく作る。意外と飽きないものだ。』(P16-7)というなんて、普通見るのも嫌になってもおかしくないのに、逆に好むようになるなんてタフだねえ。
 ロシアではスーパーマーケットが24時間営業となっているだけに留まらず、家電量販店やスポーツ用品店、家具店まで24時間営業をしているというのは驚きだわ。スポーツ用品店は翌日から休暇でリゾートに行くような人々が前日になって見当たらないといって買いに来ることが多く、家具店は高所得者の客がオーダーメイドの家具を仕事後にゆっくりと要望を聞きながら好みのデザインに仕上げるということが多いから、そういう時間帯でも、夜は人数が少なくて済みコストがあまりかからないため、採算が合うようだ。ただ、そのせいでロシア人の年間平均労働時間はあがっているようだが。日本とほぼ同じのようだ。しかし日本はサービス残業とか頭おかしいものがあるしなあ……。
 2007年にモスクワは東京を抜き、世界一生活費が高い都市となったというのは知らなかったが、そんなに物価が高いのか。
 ソ連時代は物が少なかったから、自分で必要なくとも有人や親戚、あるいは近所にあげることができるから、「無駄に買ったということはあり得なかった」というのは、なかなか想像しづらい感覚で、言われなければそんなことを気づかないようなことだな。
 ロシアでは金利の上限規制がない。そのため広告やチラシでは市場並みの20%程度と表記されていても、実質的に5、60%を超える金利を取る銀行もあるという事実には唖然としてしまう。まあ、一昔前の日本のサラ金も相当酷かったから、他国様になにかいえるようなことはないけどさ。
 ロシアの不動産ブーム。日本円で億を超えるマンション(3LDK)の支払いが、ローンでなく一括で支払うことを当然とされているほどブームが加熱しているというのは、驚き。まるでバブル期の日本のような不動産ブームだ、青天井の不動産の値段。
 アジア通貨危機の際に、ソ連崩壊時からそう長い時を隔てていないのに、再び金が価値を失い、ロシアの一般市民は絶望していたという、そうした状況は想像するだけで恐ろしいものなのでひどく同情する。そしてそんな時、著者は母に当時ロシアに進出していたみちのく銀行に口座を開いてもらって、そこに日本から送金していた。そのときに著者の母は、ロシアの他の銀行には特殊部隊員が再就職したような強面の警備員がいたがみちのく銀行ではいないこと、またロシアの他の銀行とは違う親切で丁寧なサービスに心を打たれたというが、そんな絶望的な時期に少しでもそうした日本の銀行のサービスに喜ばしいことを見出してくれたのは、他人事ではあるものの嬉しく思うし、そうしたエピソードを見るとほのぼのしてしまう。
 石油価格の高騰を背景に経済力をつけるロシア。
 日本は法律的には世界屈指に簡単に離婚できる国だと聞くが、ロシアの離婚率はその日本の3〜4倍もあるのか。
 ロシアは正月を家族・親戚で盛大に祝う習慣で、1月の1〜5日が祝日になっているというのは、欧米では新年よりもクリスマスだから新年の祝いは日本とかと比べると簡素というが、ロシアは違うのだね。そういった点はある意味ではアジア的なのかなとも一瞬思ったけど、たぶんクリスマスがソ連時代にやっていなかったから暦上の新年を祝う習慣ができたみたいなことなのだろうな。