大聖堂 中

内容(「BOOK」データベースより)

本院の修道院長となったフィリップに任命され、トムが大聖堂建立に着手する日がやってきた。トムの緻密な計画のもと、大聖堂の普請は着々と進んでいった。が、新しいシャーリング伯となったハムレイは、フィリップに敵対する司教と組み、執拗な嫌がらせを仕掛けてくる。自領に比べてキングズブリッジの繁栄に嫉妬したハムレイは、やがて町に焼き討ちを。

 上巻を家で読み進めていたときは、ちょっとした不安を感じるイベントがあると直ぐに一旦本を閉じて心を落ち着かせてから読んだり、そういういやな予感がする展開になると読むのがしんどくなってしまい、読むペースが上がらなかった。しかし中巻から持ち歩いて電車内で読むようにして、それしか読むものない状態にしたらべらぼうに読みやすい、この小説のリーダビリティーのたかさに気づいた。中世という時代を感じられる細部の描写はすごくいいのだけど、個人的には物語に苦難が多いよりも順風満帆に行っていたほうが読みやすいし、好きなので、いまいち好みでないなあ。多少ご都合主義でもそっちのほうがずっと好きだな。小説というのはそうした挫折だったり、ままならなさが書かれているからこそ小説らしいというのなら、ちょっと不安を感じさせる描写があると、もう楽しめないという私はいまいち小説に向いていないんじゃと最近思う。
 前巻の終わりからアリエナに苦難が続く。父が捕らえられても弟と執事と共に誰もいなくなった城で暮らしていたが、新しくシャーリング伯(の息子)となったウィリアム・ハムレイに陵辱された彼女は弟と共に雨の中、城を出て、逃げる。その時になって、今までの生活が戻らないことをわかっていながらもその事実と直面せずに暮らしていて、夢の中にいたとしても、こんな夢の打ち破られ方はあんまりだよ。兄弟二人で外の世界へと逃げ出ても、まだ完全には現実の厳しさをしかとはわかっておらず少し楽観的に捕らえているが、そんな二人に現実の厳しさを知る。疑うなんて知らなかった二人は人に騙されてその厳しさを知る。彼らの放浪(結果的には短く終わったが)から、中世の今まで登場していなかったさまざまな面、仕事だったり貧しい民の生活を垣間見ることができる。というか、こういうシーンがつらいので、そうしたシーンはこの物語世界の広さを感じさせてくれるから嬉しいんだけど、そうした描写を見せなくてもいいから彼らに早く救いを与えてくれと真剣に思う。結局はフィリップの助けと、アリエナは商才(というかもともとの頭のよさ)のおかげで彼女は羊毛を扱う商人となったことで、姉弟は生活を立てることに成功する。しかしフィリップはアリエナの父の失脚に一役買った人物なのに、アリエナの恩人となるという縁は予想外。いや、フィリップからアリエナを助けようとしたのだが、事実を知っていると皮肉というかなんというか。それから、アリエナの弟はどうにも頼りないというか、こんな苦しいときに姉におんぶに抱っこといった感じで、父はこの弟に失地回復の誓いを立てさせて、アリエナにはそれを助けよと誓わせたが、こいつに領地を取り戻させるのは無理があるのではとちょっと心配になってしまった。まあ、誓いを作中で書いたのだから、ハムレイ一家は没落しアリエナたち姉弟復権するのだろうと思った。まあ、こういうメタ読みはあまりよろしくないことだろうけど、アリエナをこのままにしておくはずがない、世界でヒットしたのだからそうに決まっているという願望含みでの予想で、正直そう思っていないと、中巻は物語の終わりがまだ見えないし、これまでの展開的に単純に順風満帆に物語が進むわけがないということが分かっていて、困難を物語をたたみに掛かるまで散々追加してくるだろうというのが予想できるから、読むのがつらくなってしまうから、そう思うことに下というだけだけど。しかし弟君は実際に大人の男になっても武勇は人並み異常の存在となったが、人格的にはちょっと自己中心的すぎるし、それが父への誓いもあり、ほとんど弟に金で売られるようにして望んでもいないものへと嫁ぐことを決心して、この巻最後のアリエナの悲劇的な結婚という事態を招いてしまうのが、悲しいしやりきれない思いを抱く。
 トムはエリンに逃げられてもなお、アルフレッドへの態度は変えていないというのは、どうしようもないバカ親さだな。
 敵役であるウィリアム・ハムレイのパート、彼がどうなろうとかまわないから不安を感じずにすむぶんだけ、他のパートも読みやすく感じたのだが、よくよく考えてみると彼が出てくる度にキングズブリッジに災厄がもたらされてきている。しかし彼が不当にフィリップに利益を吸い取られ、自分が損をしているという妄執を抱いていて、愚かにも憤りを抱いているから、その滑稽さに暗い喜びを得られるから、その後にフィリップが苦労するパートが続こうともちょっとその未来に目をそらし少しの楽しみを覚える。それに彼が最終的に没落すると思っているから、あらゆるところに彼の家の衰退の予兆を見て、それでニヤリとしているから、本当はフィリップたちのが被害でかいのにそれよりも彼の衰微に関心が行ってしまうから、彼のパートでフィリップたちがどうなるかという不安はあまり感じないのだな。例えば、ウィリアムが自分の領民に残虐な行為をしていても、それがかえって自分の首を絞めると思うってそれほど不安にならないし(メインキャラに被害が及ばないということもあって)、石切り場を彼らに襲撃されたシーンでも多くの石工たちが奮戦して、死亡して、さらにフィリップたち修道院側はその石切り場を使用できなくなったが、そのことや優秀な石工たちの死亡よりもウィリアムらの損害の多さに暗い喜びを得てしまった。そしてウィリアムのパートにはウォールランも出てくるが、もっと主体的に妨害工作にかかると思いきや、そうした策を彼に授けるだけで予想していたよりも関わってこなかったな。まあ、それは単に予想が悪すぎたのかもしれないが。
 ウィリアム・ハムレイという災厄に見舞われても、一つずつ苦難を乗り越えて、キングズブリッジ近くに形成された町(フィリップが修道院長になってから町に成長した)も成長していったり立ち直っているけど、まだ中巻であと3分の1以上のこっているから、これからのそうした試練の多さを思うと不安で、読んでいて疲れてきてしまう。
 アリエナの弟のリチャードウィリアムの父の死亡時には、シャーリング伯領の後継者の対抗馬として名乗りを上げる、というかそうだと王が認識するほどになるとは意外だ。そこまで騎士としての能力があったのか、やつは。成長した彼が姿を見せたときには立派に、頼もしくなったなと思っていたのだが、人格はどうしようもない人間だな。まあ、誓いのために、それ以外を眼中に置かず、邁進してきた結果なのかな。……本来の性格的欠陥もあるだろうけど、おおいにね。武人としての実力はたしかなのだがねえ。姉を財布としか思っていないのでは、軍資金のために最後はほとんど姉を売るように嫁に出して金を得るって、ウィリアムにはいち早く没落して欲しいのだが、こいつにも伯となって欲しくないとも思ってしまう。
 ジャックとアルフレッドはジャックの本当の親父のことをアルフレッドが罵倒したのを契機に大喧嘩となり、大きな騒ぎを起こし、資材も大きく損じたということで、どちらか一方を追放しなければならなくなり、立場が低いジャックが追放されることとなる。しかしエリンとジャックの嘆願により、フィリップはもしジャックが修道士になるのであれば、そうした自分の右腕となって引き続き大聖堂の仕事に携われるようにしようと述べる。そして、ジャックはアリエナに想いが伝わったと思ったとたんに、冷たい態度をとられるようになったことで自棄になっていたということもあり(もちろん大聖堂作りの仕事が好きだということもあるが)、その話を受けて、彼は修道士となる。
 イングランドの王位をめぐった争いで、王も女王に破れて捕虜となり、フィリップも王に石切り場の件について嘆願するために、その戦いの場に居合わせた。そのとき王の軍勢が町で市民に対して乱暴する兵を、かつて自分を救ってくれた修道士のように助けようとしたが、ヒーローにはなれずに捕虜となる。そのことで王の側の人間と見られて、王に認められなかった嘆願を女王に嘆願する策も終わって、すべては終わったと思ったが、弟フランシスの助けもあって、なんとか石切り場は失うが市場を引き続き出す許可を得ることはできた。しかし100ポンド彼女に払わなければならなくなってしまったが。しかし弟の機転で、ウィリアムの町の市場と同等の市場が出せることになったので羊毛市を出せることになったのは不幸中の幸い。しかしその羊毛市で儲けることができる算段がついたのだが、その羊毛市の日にウィリアムが襲撃してきて、町は大打撃を暗い、アリエナは破産して弟のためにトムが死んで家督相続者となったアルフレッドの元に、本当はエリンの息子で彼の義弟のジャックを愛しているのに、嫁ぐことになる。そしてアルフレッドも本当にアリエナが好きというわけではなく、ジャックが嫌いだからこそ、彼女を妻としようと思っているという相手にも愛のない結婚だからなおさら悲惨だ。
 ジャックはアリエナとアルフレッドの式の前日に修道院を脱走してアリエナに会いにくるが、ジャックを愛してはいるものの結局アリエナの決心は変わらず、結婚することになる。そして、ジャックは修道院を脱走してそのままどこか別の地へと旅をすることになる。
 結婚式の時に、『通りを行く彼女にむかって、トウモロコシがばらまかれた。トウモロコシは多産のおまじないなのだ。』(P380)とあるけど、当時トウモロコシないだろアメリカ産なんだから。たぶんこれライスシャワーのことだと思うけど、穀物という意味のcornをトウモロコシと取り違えての誤訳だろうか、原文知らないから想像だけど。
 そして結婚式の時にエリンは、彼女とアルフレッドに性交が叶わないように呪言を吐いて、そのまま遁走する。そして二人の間に愛情がもともとなかったということもあって、彼女の言葉が二人の精神に影響を及ぼしたのか、結局初夜に性交できずに、それにアルフレッドが怒って彼女を超嫡子、アリエナにとって苦しい結婚生活になることが結婚当日に既に明らかとなった。本当に今回は何もかも失ったところから裕福な商人となったのに再び、羊毛市ですべての金を失って、また弟に父の領地を取りもどさせるという誓いのために、ジャックへの愛も手放し(彼の駆け落ちの誘いを断って)て、地獄の結婚生活を送ることになるとはかわいそう過ぎて見ていられない。