人類は衰退しました 9

内容(「BOOK」データベースより)

わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。すでに地球は“妖精さん”のものだったりします。そんな妖精さんと人間との間を取り持つのが、国際公務員の“調停官”であるわたしのお仕事。わたしが所長になってからのクスノキの里のその後、知られざる妖精さんたちの裏の活動(あるばいと)、『世界人里ブックガイド』執筆をもくろむ旅、さらにはラブコメ風・わたしのデートの一日…?などなど、書き下ろしを大量に含む文庫本未収録エピソードを詰めた「おまけ」が楽しい食玩的短編集。


 短編集の感想あげようとして、まだ最終巻の感想をあげていなかったことに気づく。なるべくライトノベルは先に上げるようにしているのだが、こうしたポカをやらかすことが稀によくあるなあ。
 本編完結。今回で本編が完結するとは思わなかったので驚いた。しかし、あとがきをみると短編集が少なくとも1冊は出るようだし、その後は売り上げ次第のようだがこのシリーズの人気的に短編集1つだけで打ち切られるとは思えず何冊か出そうなので、本編完結と知って悲しくなったが、シリーズの終了はまだまだ先だと思えるから(刊行ペース的にも)安心した。
 しかし今回は特にシリアス風味だったし、世界設定が出てきたこともありSF的な話だったな。
 冒頭の「わたし」は妖精パワーがあるとはいえ、ずいぶん無茶するなあと思っていたら、意識が月に行っている間に潜在能力をフルに発揮しながら半無意識的(分裂した意識で)の行動だったのか。しかし潜在能力フル稼働した「わたし」はずば抜けた多才・多能ぶりだな。しかし全力出した「わたし」がゴルゴ眉になるというのは思わず笑った。中盤ぐらいでゴルゴ眉だったことが明かされるけど、それ以前の冒頭のほのめかされるくらいが一番面白い塩梅。まあ、なんだろうと疑問に思ってしまうかも知れないから一応しばらく後(中盤)にゴルゴ眉だったことが明かされるのは悪くわないけど。
 「わたし」の学校時代の後輩(だっけ?)の<巻き毛>がちょっとだけ登場したが、まさか彼女が再登場することがあろうとは夢にも思わなかったので少し驚いた。
 普段はモノリスの形態を取っているP子、O太郎は稼動させるのに伝記が必要で手回し四季で充電させて稼動させるという話で、それを見て今後も稼動して動き回れる時間が少なそうだと思いちょっと悲しい思いにとらわれたものだが、今回「わたし」が妖精さんの力を借りてあっという間にフルに充電を完了させているのを見て、案外彼らはしばしば人型の形態に戻って行動していそうなことがわかってなんだか安心した。
 雨が降らなくて困ると若干管轄違いの相談を受けても「わたし」は妖精さんに頼んで農地にピンポイントに雨を降らせてもらっているということだが、なんか片手間にそんなことをしている行いをみるとかなり強力な魔術師とかシャーマンとかそういう類の人に見えるわあ。
 祖父を助けるために妖精さんパワーを借りて月へと向かう途中で、妖精さんたちと過去の歴史を見ることになる。そこで今まで謎だった、この世界での人類の発展から衰退までと妖精さんの発生と人間との交流についてがついに明かされ、語られる。
 過去のある南の島の王が「妖精」(まだ現在の妖精さんのような姿ではなかった)の力を借りて、宇宙エレベーターを作ったが、その妖精は半分実体を持って命を持っていたので死んでしまったというのは驚いたが、その死因がお菓子のやりすぎで糖尿病で死んだことに脱力しながらも笑ってしまった。
 何巻だったか忘れたが結構前に「わたし」はO太郎、P子を宇宙に再度生かせないため、妖精さんたちに戻ってきてもらうために電気の施設を破壊したときに罰として髪を切られていたが、妖精さん印の髪を長くする薬を使った影響で髪が動いていたが、その薬の効力が今でも残っていたというのは驚きだ。
 今回はお祖父さんを完璧に助けることはかなわなかった、だからといって完全に死んでしまったわけでもないが、それでも今までのように常に身近で生活している、宇宙船の事故が起きる以前のようにこれまでどおりという風にはいかなかったのだから、ちょっとビターな話だな。
 助手さん、ついに口を開くようになったと「わたし」が思っているように『思っていたより、ずっとべらんめえ口調」であることにはちょっと笑みが浮かんでしまう。
 「わたし」は彼女を助けに来てくれた人たちともども宇宙エレベーターの中を二ヶ月歩いて地球へと帰ったというのは、地球でも長いと思うが、宇宙でそれは途方もなく辛く長い道に思えて人事ながら思わず遠い目をしてしまいそうになる。