人類は衰退しました 平常運転

内容(「BOOK」データベースより)

わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。すでに地球は“妖精さん”のものだったりします。そんな妖精さんと人間との間を取り持つのが、国際公務員の“調停官”であるわたしのお仕事。わたしが所長になってからのクスノキの里のその後、知られざる妖精さんたちの裏の活動(あるばいと)、『世界人里ブックガイド』執筆をもくろむ旅、さらにはラブコメ風・わたしのデートの一日…?などなど、書き下ろしを大量に含む文庫本未収録エピソードを詰めた「おまけ」が楽しい食玩的短編集。

 短編集。前半では本編完結以後のエピソードを書き下ろし、後半では店舗特典SSペーパーやBD・DVDが初出の短編を収録。各短編はSSは短いけど、おおむね1編2、30ページのボリューム。
 「はたらく妖精さんたちの、べんちゃーびじねす」妖精さんブラック企業ネタは、いくら妖精さんでもちょっと笑えなかったわ。
 この短編では、いつの間にか発生する妖精さんが巻き起こす騒動の、起こるきっかけとなる妖精さんたちの遊びのはじまりについて、妖精さんたちを中心に書いているので、そうしたものを今回はじめてみることができるので、それはちょっと面白い。
 「はたらく妖精さんたちの、食品玩具」以前に出てきた子供A、B、Cの話。彼らが楽して金(というか配給券)を稼ごうとする。こうした子供たち視点のエピソードは面白いなあ。
 「過去からのメッセージ」口にすれば道の言語を解読できる妖精さんのゼリー。それについて「わたし」は『たぶん、仕組みとしては傾向摂取するゼリー状の最近のようなものではないかと。脳に寄生して言語能力を行進するんでしょう。死滅するまでの数十分間、我々は言語の達人になれるというわけ』(P68)とグロイ考察をしているのに、使用するのに一切躊躇していないのは凄いなあ。
 「おふたりさまで、業務活動記録」助手さんと「わたし」ちゃんの二人で、里の娯楽施設の視察という建前でのデート。その道中の二人に出会って、不機嫌そうな目で二人を見やっているYにニヤニヤ。おじいさんが薦めていたように、順調に二人の関係が進展していってるのは嬉しい。
 しかし助手さんの影の薄さ、意図的にそうすることができるという代物だったか。最終巻を見て、「わたし」などの側からの認識の問題だと思っていたわ。でも、よく考えたら、初登場時に(たしか)いつの間にか見当たらなくなっていたのだから、あの時もこうして意図的に技能として使っていたのか。
 BD・DVDが初出の短編は休暇中の「わたし」が旅行中に滞在したさまざまな村の変わった事情について語られているため、散々キノみたいと言われているが、たしかにキノっぽい。
 しかし衰退世界でも観光で食えている村(村ぐるみでアミューズメントパークやってる村とか)があったり、昔の超技術の名残が現在も用いられているところ(働かなくとも自身の村だけでなく、他2つの村を養えるだけのかつての時代の施設を持った村やさまざまなフルーツを豊富に産する土壌がある村)がある。それも「わたし」の徒歩でのたびの最中にそうした村といくつも出会うのだから、ゆったりスローライフで衰退しているような村というのはないのか、あってもそうした村のほうが少ないのか。なんというか、もっと自給自足的な村や集落が多いものだとばかり思っていた。
 「わたし」のいるクスノキ村も、「わたし」効果(≒妖精効果)もあってゆったりとした平穏な日常を送っているとは言いがたいしね。
 それとクスノキ村は本編で大きな被害にあったけど、現在は以前よりも規模の大きい村となる発展を遂げているようで安心した。
 「フルーツ、だめ、ぜったい?」フルーツを特産としている村で世話になった娘さんに、品種改良が捗るように、妖精さん製の道具を贈って、それを使って二人で色々なものを作ったときに出来た気分が高揚したり冷静になったりするフルーツが野生化して、密かに流通されるようになったというのは、せっかく普通の麻薬が根絶した世界なのにそんなものが広まっているというのは、なんというか、……酷いな(苦笑)。
 「旅の手土産に最適なもの」妖精さん、身寄りのない子供たちの学校を作って、子供たちに貸しを作らせるのはいいけど、大人は誰一人としていないというのはちょっとホラー的で怖いな。「わたし」ちゃんが菓子の作り方を教えて、一杯美味しい貸しが出来たから妖精さんたちが満足して離散してしまって、途方にくれる子供たちを「わたし」がクスノキの里に連れ帰る。そうしたオチは、いいことなのか判断に困るな。そして、そんなオチをみてからタイトルをみると、ブラックだなあ。
 短編集はストックないけど、これで終わりではなくまた出す、かも?ということで、明確にこれで終わりじゃないのはちょっと嬉しい。まあ、本編も年一くらいのペースだったのだから、次が出るとしても何年か後でしょうけど。